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インキュベーションの虚と実

コミュニティづくりはインキュベーションの原点
鯖江の首長、チャンピオン、エコシステムに学ぶ

本荘修二 [新事業コンサルタント]
【第9回】 2012年8月20日
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「電脳メガネサミット」にて、電脳メガネをかけた(左から)神戸大学・塚本昌彦教授、携帯電話研究家・木暮祐一氏、jig.jp福野泰介社長 Photo by Shuji Honjo

 人口7万に満たない鯖江のイベントに集まったのは、アニメ賞を総なめにした「電脳コイル」の製作委員会プロデューサーの徳間書店映像事業部長・三ッ木早苗氏、ウェアラブルコンピュータ研究開発機構理事長で、神戸大学教授の塚本昌彦氏、NTTドコモと電通のモバイル・マーケティング戦略合弁会社、D2C社長の宝珠山卓志氏、フジテレビ・デジタルコンテンツ事業部長の種田慶郎氏、セイコーエプソンのビジュアルプロダクツ事業部エキスパートの津田敦也氏、佐賀県CIO・森本登志男氏。そして全国各地からプレゼンターや観客が集まった。観客のなかには、やはりウェアラブルコンピュータを開発するブラザーの方、携帯電話研究家の木暮祐一氏なども参加していた。

 このイベントに顔を出して筆者がまず思ったのは「いったい、なんでこれほどの人を、東京から遠い福井県鯖江市が引き寄せたんだ?!」ということだった。

 このイベントは「電脳メガネサミット」。今年4月にグーグルも開発を発表したが、何年も前から研究されてきた電脳メガネは、このところ急速に注目されている(参考ブログ:i・Design Studio|電脳メガネサミット)。この革新的なテーマを真っ先に取り上げ、この8月4日に福井県鯖江市が「第二回さばえIT推進フォーラム」として開催したのだ。ちなみに、鯖江はメガネフレームの産地として国内96%、世界約20%の市場シェアを持ち、特にハイエンドでは独占的だ。

 本イベントは内容も、普段よく見られる東京でのイベントよりも充実していた。電脳コイルの三ッ木氏、電脳メガネを商品化したセイコーエプソン津田氏、鯖江から牧野百男市長ならびにメガネの三光工学・三輪英樹社長とITのjig.jp福野泰介社長らのパネルディスカッション登壇者は、未来の可能性を議論し、話がかみ合っていて聴衆を飽きさせることは無かった。

 そして、選抜された近未来の電脳メガネのアイデアが福井県内4チーム、県外5チームからプレゼンテーションされたが、感動ものだった(参考:電脳メガネサミット 第2回鯖江IT推進フォーラム まとめ #sabaemegane)。筆者も参加した審査では、なかなかのレベルで優劣つけにくく嬉しい悲鳴となった。こうしたものを見尽くしてきた神戸大学・塚本教授も、アイデアの新しさや創意を評価していた。

 参加者からも、刺激やヒントを得て満足との声が。コンテスト発表者の中には、試作品の共同開発が懇親会で決まったものも。事前に毎日新聞で、事後に福井新聞、中日新聞、NHKで報じられた。鯖江というコミュニティを、“未来がみえるメガネ”としてアピールできたのではなかろうか。

 それでいて、Ustreamで三ヵ国語生中継した通訳の費用以外は、お金はあまりかかっていない安上がりイベントだ。地域の元気化を担当する方は、うらやましいを超えて、なんでこんなことができるのか、と驚くのではなかろうか。

なぜこんなことができるのか?
オモロイ人と開かれたエコシステム

 鯖江は人口7万に満たず、大学もない。産業クラスターはおろか、地域振興に打つ手なしとなりかねないような条件だ。

 「電脳メガネサミット」の発案・登壇者の福野氏から本イベントの開催を聞いたとき、筆者は「えっ、このテーマで本当にやるの!?」と、思わず聞き返してしまった。そして、そう思ったのは筆者だけではなかったようだ。福野氏が、本イベントの司会を担ったプロフェッショナル・コネクター勝屋久氏(第7回で紹介)に7年前、「鯖江をシリコンバレーのようにしたい」と言ったとき、勝屋氏は「何言ってるんだ、おかしいんじゃないか!?」と思ったという。

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本荘修二 [新事業コンサルタント]

多摩大学客員教授、早稲田大学学術博士(国際経営)。ボストン・コンサルティング・グループ、米CSC、CSK/セガ・グループ会長付、ジェネラルアトランティック日本代表を経て、現在は本荘事務所代表。500 Startups、NetService Ventures Groupほか日米企業のアドバイザーでもある。


インキュベーションの虚と実

今、アメリカでは“スタートアップ”と呼ばれる、ベンチャー企業が次々と生まれている。なぜなら、そうした勢いある起業家たちを育てる土壌が整っており、インキュベーターも多く、なにより、チャレンジを支援する仕組みが存在するからだ。一方の日本はどうなのだろうか。日米のベンチャー界の環境の変化や最新のトレンドについて、25年にわたってベンチャー界に身を置いてきた本荘修二氏が解説する。また日本でベンチャーが育ちにくいと言われる背景を明らかにし、改善するための処方箋も提示する。

「インキュベーションの虚と実」

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