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連載経済小説 東京崩壊
【第67回】 2012年8月24日
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高嶋哲夫 [作家]

移転先の候補地

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第4章

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 その日の夜、森嶋、村津、そして優美子は、東京駅近くのホテルのロビーでロバートと会った。ダラスと会うには、村津も同伴したほうがいいと森嶋が判断したのだ。

 ロバートはしきりに優美子のほうを見ているが、優美子は完全に無視している。

 3人はロバートに案内されてダラスの部屋に行った。

 「ダラスはここのスイートルームを借りている。3部屋あって1部屋は会議室にも使える」

 ビクター・ダラスはパソコンを膝に置き、ソファーに座っていた。

 「これは長谷川さんからあなたにと」

 森嶋は1冊の写真集を差し出した。ロバートと電話した後、長谷川を訪ねて頼んだものだ。

 森嶋は1ページ目を開いてダラスの前に置いた。長谷川のサインとメッセージがある。

 緑の地球のために。そして、よりよい世界のために。長谷川の作品の写真集だ。

 付箋のページを開いた。ダラスが住んでいたという町の公園の写真だ。

 ダラスは無言で写真を見ている。

 優美子は村津とダラスがすでに顔見知りであることを知って、驚いた表情をしたが何も言わなかった。

 「日本の美と合理性は本来、相反するもののように見られていました。しかし、長谷川新之助の建築はその二つをうまく調和させています」

 写真集から顔を上げたダラスに村津が言った。

 「私のもっとも尊敬する建築家です。彼の造る首都を見てみたい」

 「それはあなたの決断にかかっている。日本という国は彼の建築のように数値では計り切れないモノを持っています。あなたにはそれを理解してもらいたくてやって来ました」

 ダラスは軽く頷いて考えている。

 「あなたは、私ではなく我々の専門スタッフを納得させることは出来ますか」

 「チャンスを頂けるなら有り難いことです」

 ダラスは森嶋たちを隣室に案内した。

 森嶋たちは入口で立ち止まった。ロバートも驚きを隠せない顔をしている。

 

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高嶋哲夫 [作家]

1949年、岡山県玉野市生まれ。1969年、慶應義塾大学工学部に入学。1973年、同大学院修士課程へ。在学中、通産省(当時)の電子技術総合研究所で核融合研究を行う。1975年、同大学院修了。日本原子力研究所(現・日本原子力研究開発機構)研究員。1977年、UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)へ留学。1981年、帰国。
1990年、『帰国』で第24回北日本文学賞、1994年、『メルトダウン』で第1回小説現代推理新人賞、1999年、『イントゥルーダー』で第16回サントリーミステリー大賞で大賞・読者賞など受賞多数。
日本推理作家協会、日本文芸家協会、日本文芸家クラブ会員。全国学習塾協同組合理事。原子力研究開発機構では外部広報委員長を務める。


連載経済小説 東京崩壊

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「連載経済小説 東京崩壊」

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