現在の台湾においては、政治と経済に関する重大な社会問題が山積している。これらは、台湾において「主権在民」の精神がいまだに根付いていないために、国民が政府の一連の失政をうまく阻止できず、起こっている問題だ。言い換えれば、これまでの台湾の民主化発展の趨勢は「勝者が全てを掌握する」モデルであった。これについて、過去の独裁政権の残滓や社会条件を加味した考察がなされて来なかったことを反省しなければならない。

 台湾がこれから、政治においても経済においても負け組になるような国難を避けるためには、どうするべきか。もう一度体制を改革し、「コンセンサス型民主主義」(編集部注:比例代表制や多党制を特徴とする民主主義)に移行する必要があると私は考えている。コンセンサス型民主主義は、権力の分担により、傷ついた社会の分裂を補修し、対立を解消するのに適した民主体制だといわれる。であるならば、いまだにアイデンティティーによって社会が分裂した台湾においては、この体制が有効な解決手段の一つとなるのではないか。民主制度は台湾の究極的な価値であるという前提の下、民主主義制度の選択を考慮する必要があると考えている。

 私はこれまで「民主改革を成し遂げ、民主国家となった台湾は、もはや民族国家へと後戻りするべきではない」と主張してきた。台湾の国民が持つ共通の意識はあくまで民主主義であり、民族主義ではないのだ。英国の経済学者エルンスト・フリードリッヒ・シューマッハーは、「ある経済体が、政治的独立と国家のアイデンティティーを失ったなら、発展はあり得ない」と指摘している。台湾はこれからどのようにして、民主政治体制を通して社会の分裂を食い止められるだろうか。