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開沼博 闇の中の社会学 「あってはならぬもの」が漂白される時代に
【第8回】 2012年9月11日
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開沼 博 [社会学者]

第8回
“普通の人”を誘う「脱法ドラッグ」の真実

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いつの間にか、テレビや新聞から「脱法ドラッグ」という言葉が定期的に聞かれるようになった。覚せい剤のような「違法ドラッグ」の隙間をぬって街やインターネットで堂々と販売され、なかには「合法ドラッグ」と呼ぶ使用者さえいる。その一方で、当局は規制を理由に「違法ドラッグ」と称して監視の目を強めており、「脱法ドラッグ」とはまさに「グレー」な存在なのである。
社会学者・開沼博は、「ドラッグ専門家」のサトシに密着。そこで明らかになったのは、薬物服用の危険性や「脱法ドラッグ」浸透の理由だけではない。日本社会に定着した「違法ドラッグ」への強いタブー意識こそが、「脱法ドラッグ」に対する“普通の人”の虚ろな安心感を生み出すという、語られることのなかった構造の矛盾までが見えてきた。
第8回は、「あってはならぬ」違法ドラッグを規制することから生まれた「脱法ドラッグ」の真実に迫る。連載は全15回、隔週火曜日更新。

1グラム1600円で手に入る「脱法ハーブ」

 「サトシ、今買ってきてよ」

 40代のフリーライターの高田は、そう言って旧知の「ドラッグ専門家」サトシに3000円を手渡した。最近になって世間を賑わすことも多い「脱法ドラッグ」の取材を始めるにあたり、現物を手に入れておこうと思ったのだった。

 繁華街の奥まったところにある中華料理店で待つこと5分足らず。帰ってきたサトシは何も言わずに、「1パケ」(1グラム)の「脱法ハーブ」を差し出してきた。その値段は、1グラム1600円、「リズラー」(巻紙50枚)は250円だ。

慣れた手つきで「手巻きハーブ」をつくるサトシ

 店の外に出ると、サトシは「3グラムだと4200円くらいでお買い得なんですけどね。これは最近出た種類なんです」と説明を始めた。

 「オレ、ここ1年、だいたい毎日(ハーブ)欠かしたことないんですよ。ただ、ずっとやってると何をやっても効かなくなる。相当な量をやらないと全然キマらないから、カネがかかる。それで最近ショップの店員に相談したら、出てきたのがこれ。ダウナー系(感覚を抑制して気分を落ち着ける)の強力なやつですね。ただ、ダウナー系なんだけど眠れなくなる。シャブ(覚せい剤)みたいなアッパー系(感覚が鋭くなり強い幻覚をもたらしたりする)も混じってるかもしれませんね」

 そう言いながら、リズラーの上にハーブと手元にある紙切れでつくった「クラッチ=フィルター」を手際良く乗せ、「手巻ハーブ」をこしらえると火をつけて吸ってみせた。

 そして高田は、「試しに」と一口だけ、本当にたった一口、しかもごく浅くハーブを吸ってみせた。「肺に入れることはなく、口の中に煙を一瞬だけ泳がせてすぐに吐き出した」高田は、後日、その時の感覚をこう振り返っている。

“普通の人”がドラッグを体験するとどうなるのだろうか……。

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開沼 博(かいぬま・ひろし) [社会学者]

1984年、福島県いわき市生まれ。東京大学文学部卒。同大学院学際情報学府修士課程修了。現在、同博士課程在籍。福島大学うつくしまふくしま未来支援センター特任研究員。専攻は社会学。学術誌のほか、「文藝春秋」「AERA」などの媒体にルポ・評論・書評などを執筆。
著書に『漂白される社会』(ダイヤモンド社)、『はじめての福島学』(イースト・プレス)、『「フクシマ」論 原子力ムラはなぜ生まれたのか』(青土社)、『地方の論理 フクシマから考える日本の未来』(同、佐藤栄佐久との共著)、『フクシマの正義 「日本の変わらなさ」との闘い』(幻冬舎)『「原発避難」論 避難の実像からセカンドタウン、故郷再生まで』(明石書店、編著)など。
第65回毎日出版文化賞人文・社会部門、第32回エネルギーフォーラム賞特別賞。

 


開沼博 闇の中の社会学 「あってはならぬもの」が漂白される時代に

不法就労外国人、過激派、偽装結婚プロモーター、ヤクザ、チーマー、売春婦……。彼らはときに「アウトロー」や「アンダーグラウンド」と評され、まるで遠い国のできごとのように語られてきた。しかし、彼らが身を置く世界とは、現代社会が抱える矛盾が具現化された「ムラ」に過ぎない。そして、「あってはならぬもの」として社会からきれいに“漂白”されてしまった「ムラ」の中にこそ、リアリティはある。
気鋭の社会学者である開沼博が、私たちがふだん見えないフリをしている闇の中へと飛び込んだ。彼はそこから何を考えるのだろうか? テレビや新聞を眺めていても絶対に知ることのできない、真実の日本を描く。全15回の隔週火曜日連載。 
 

「開沼博 闇の中の社会学 「あってはならぬもの」が漂白される時代に」

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