顧客の可視化は商品開発の現場でも
内発的動機付けにつながる

 小売業やサービス業では顧客と従業員との接点が生まれやすいですが、これまでメーカーでは製造に携わる人が、実際に顧客に製品がどう使われているかを知る手段は限られていました。それどころか、どう買われているかを知らない場合や、明らかに作り手の意図から見て“正しく”使われていないケースもあります。

 例えば人気商品を販売するときに、利用や販売を促進したいプロダクトやサービスをセットにする「抱き合わせ商法」は昔からある手法です。例えば、パソコンにプリインストールされているバンドルソフトや、携帯電話の機種変更をしたときにショップから勧められるサブスクリプションサービスなどです。しかし、セットにされる側のプロダクトやサービスが顧客のニーズに必ずしも沿っていない場合、一度も使われずに終わることも多々あります。

 こうしたやり方はある種、プロダクトやサービスを作っている人に対する侮辱とも言えるものです。あるいは作り手も「自分は1カ月無料でバンドルされて、その後解約を忘れて使われるサービスを作っている」という自覚があるのかもしれませんが、いずれにしてもよろしくない、本来なら恥ずべきことだと思います。

 プロダクトやサービスは、本当に使いたい人に使われ、使い続けてもらうように企画・開発し、提供するのが本筋です。ただ、ソフトウェアやインターネット上のサービスであれば、これが実現できているかを確認する手段があるのですが、物理的に存在するモノでは難しい部分がありました。

 化粧品や洗剤などの消費財で、どうしてこの製品が選ばれているのか、その後、使われて喜ばれているのか。これを知る手段は今まで乏しかったのですが、トライアルなどの例では少なくとも「選ぶ」接点の部分については、データでの分析が可能になりました。これからは「この人を引きつけたのはココ」と分かるようになるので、売り手だけではなく、作り手のマインドも変わってきます。それが商品開発に対する内発的動機付けになっていくでしょう。

(クライス&カンパニー顧問/Tably代表 及川卓也、構成/ムコハタワカコ)