定年をにらんだ50代後半ころからじわじわ表面化してくる前立腺がん。診断・治療法が進化したので、死亡率は減少傾向にある。進行が非常に遅いタイプが多く、直接的な死因になる人は一部にすぎない。とはいえ、第二の人生の引き出物が「告知」ではツマラナイのは確か。少しでも発症リスクを減らしておきたいものだ。
手始めとして「焼き肉で一杯」は控えめに、タンパク質は焼き物より豆腐や刺し身、肉や魚の煮物で摂取することをお勧めしたい。というのも、南カリフォルニア大学の研究グループから先月報告された研究によると、フライパンや直火など高温でウェルダンに焼き上げた肉の摂取は、前立腺がんリスクを上昇させるらしいのだ。
対象者1096人、早期前立腺がん患者717人、進行前立腺がん患者1140人の3グループで比較した結果、豚肉や牛肉など赤身肉を週に1.5回以上、フライパンでこんがり焼いて食べる男性は進行前立腺がんのリスクが30%も上昇した。また、直火焼きなど高温調理の赤身肉を週に2.5回以上食べると、リスクは40%まで上昇するという。ステーキよりも、中までよく火が通りやすいハンバーグが危ない。
一方、同じグループで鶏肉のリスクを調べたところ、フライパン調理では同じくリスクが上昇したが、直火焼きでは逆にリスクの低下傾向が見られた。研究者は高温調理でタンパク質から発生する「HCAs」、また脂身のコゲ部分や調理の煙に含まれる「PAHs」という強力な発がん物質が関係しているようだと指摘している。おそらく低脂肪の鶏肉はPAHsの発生が少なかったのだろう。ただし、なぜフライパンでは共通してリスクが上昇したかは不明のままである。ともあれ、焼き肉の食べ過ぎは控えたほうがよさそうだ。
幸い日本の食文化は生もの、煮物に蒸し物と、焼き物に頼らずとも多種多様な旬の味を楽しめる。日本人の前立腺がん罹患率が米国の10分の1以下にとどまるのは、人種の差よりも食文化に理由があるのは明らかだ。うまみを享受しなければもったいない。
(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)