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山田久の「市場主義3.0」

わが国が目指すべき
「市場主義3.0」の具体的ビジョン

山田 久 [日本総合研究所・調査部長・チーフエコノミスト]
【第7回】 2012年10月17日
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前回、わが国でなぜ「市場主義3.0」の構築が必要かの理由を解説した。今回と次回では、わが国における「市場主義3.0」の具体的な姿を考える。経済システム面と社会システム面に分けて論じていこう。

経済システム改革の2本柱

 「市場主義3.0」モデルにおいて、経済システム面で政府が行うべきは、基本的には市場競争の条件整備である。あくまで民間の自由な活動、試行錯誤を通じたイノベーションを基本に置くのが、バージョンを問わず、「市場主義」に共通する考え方である。その意味では、①市場競争にとっての障壁や競争条件の歪みをなくすこと、および、②自発的なイノベーションの「種子」を植え付けることが、政府が行うべき施策の2本柱になる。

①競争条件の歪みをなくす

 より具体的には、①については、国内市場に残る公的規制を緩和していくことに加え、人口減少下で経済成長を実現するには、外需取り込みが不可欠であることを踏まえれば、自由貿易協定の締結が重要課題である。この点に関しTPP(環太平洋連携協定)反対論が根強いが、これはその効果を過小評価しているためであると考えられる。政府の推進方針を支える内閣府の試算(2011年10月)は、GDPを概ね10年間で2.7兆円押し上げるとしている。これは微妙な数値であり、年間に均せば0.54%の成長率押し上げにとどまる、という言い方にもなりかねない。

 しかし、この数値は基本的に関税撤廃による効果であり、本来のTPPの効果は関税率の引き下げといったレベルにとどまらない。むしろ、その効果は知的財産権や原産地規制(物品の国籍を判定するルール)、環境規制など非関税障壁分野におけるオープンで公正なルールの構築にこそある。

 これは、製造分野における新興国の台頭が著しいなか、わが国は国内工場を増やして財の輸出を増やすというよりも、国内の生産は戦略分野や先端分野に集約して、標準的な製造過程の多くは新興国に任せ、ノウハウや仕組みの提供に対する対価で外貨を稼ぐ事業構造に転換していくことが、求められているからである。そうした事業構造転換にこそTPPやEPA(経済連携協定)を活用すべきであり、その転換に成功すれば、わが国産業の収益性は大きく改善し、成長率押し上げ効果は内閣府の試算を上回るであろう。

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山田 久 [日本総合研究所・調査部長・チーフエコノミスト]

やまだ ひさし/1987年京都大学経済学部卒業、2003年法政大学大学院修士課程(経済学)修了。住友銀行(現三井住友銀行)、日本経済研究センター出向等を経て93年より日本総合研究所調査部出向。同経済研究センター所長、マクロ経済研究センター所長、ビジネス戦略研究センター所長等を経て11年より現職。専門はマクロ経済分析、経済政策、労働経済。著書に「北欧モデル 何が政策イノベーションを生み出すのか(共著)、「市場主義3.0」、「デフレ反転の成長戦略『値下げ・賃下げの罠』からどう脱却するか」、「賃金デフレ」など。


山田久の「市場主義3.0」

わが国は、実質成長率の低下、デフレの長期化、雇用情勢の悪化などの構造問題に直面し、閉塞感が強まっている。その原因は、戦後に形成された経済社会システムがすでに賞味期限切れを迎えているにもかかわらず、新たな時代環境を先取りした国家ビジョンが構築できないままに、政策議論が混乱し続けていることに求められよう。本連載では気鋭のエコノミストである日本総研の山田久調査部長が、大震災後、欧米ソブリン危機後のわが国が目指すべき「新しい成長社会」の具体的なあり方を探っていく。

「山田久の「市場主義3.0」」

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