グローバル化と
IT革命の意味

 いまの経営トップが次世代の経営者に期待する資質とは何だろうか。この問いに答えるためには、現在、起こっている環境の変化を正しく捉える必要がある。

 2000年前後から、グローバル化とIT革命がお互いを強め合う形で加速しつつある。IT革命により、デジタル化が進み、多くの機能は半導体とソフトウェアに集約されるようになった。コンピュータがあらゆるものの中に入り込み、通信インフラが進化し、ソフトとハードとサービスの融合が可能になった。

 こうした中で、開発コストはうなぎ上りになり、スマホ1台をつくるだけでも5000以上の知財が必要といわれる。そして、膨張する開発コストを回収するために、グローバルな規模での販売が不可欠となっている。もはや国内市場、あるいは先進国市場をターゲットとするだけでは利益を上げられない構造になってきているのだ。

 こうした新しい問題に対応するため、アップルやサムスンなどを筆頭に、多くの企業がグローバルな分業体制や、オープンなプラットフォームを活用して事業を展開するようになっている。アップルが本社を置くシリコンバレーは情報通信産業の集積地であるが、シリコンバレーはそこだけで成り立っているわけではない。

 暗号や無線通信の技術ではイスラエル、ソフトウェア開発ではインド南部の諸都市、ハードウェアでは台湾といった、世界各地の情報通信産業の集積地とネットワークを構成し、その間をユダヤ人、インド人、華僑が行き来しながら、連携して事業を展開している。いかに日本の大企業とはいえ、もはやひとつの企業体だけで問題を解決できる時代ではなくなった。問題の大きさの方が企業の器を超えてしまったのだ。

 こうした環境の変化にいち早く適応した欧米、韓国・台湾の企業の追い上げを受け、日本の多くの経営者は、かつての王者が王者ではなくなる日が来ることに、危機感を覚えているのだ。