「やまゆり園事件」の重い教訓、障害者虐待ゼロに向けた神奈川県の決意表明「障害者支援施設における利用者目線の支援推進検討部会」開催時の様子 Photo by Maki Fukuhara

神奈川県相模原市の知的障害者施設殺傷事件(津久井やまゆり園事件)後、2019年、神奈川県に「津久井やまゆり園で障害者が不適切な支援を受けている疑いがある」との情報が寄せられた。神奈川県が同園を含む県立障害者施設を調査したところ、別の施設で1日20時間以上、部屋に閉じ込められていたこともわかった。障害者の入所施設で一体、どんなことが起きているのか。(医療ジャーナリスト 福原麻希)

施設職員・県庁職員総勢94人の
ヒアリングでできた検証報告書

 今年3月末、神奈川県は県内の知的、および身体障害者入所施設における日常生活での身体拘束や居室施錠(鍵をかけるなどして部屋から出られないようにする)等の虐待に関する調査結果を含む検証報告書(※1)を発表した。

 調査は、2020年、神奈川県からの指定管理者制度による施設と県の直営施設の6施設を対象に実施された。神奈川県障害者施策審議会に、この調査と検証のための検討部会が設置された。

 報告書は100ページ以上になるもので、3つの観点から構成される。

(1)現場レベル(利用者に対する支援の状況):調査時点での身体的虐待を疑われる利用者の生活状況、施設が身体拘束等を実施するに至った背景や要因、身体拘束を軽減・廃止した、あるいはそれに取り組んでいる場合は経緯について、など。
(2)施設管理レベル(施設や法人のガバナンス):施設管理、法人の経営に対する姿勢や考え方、など。
(3)政策レベル(施設に対する県の関与):県庁の担当部署は施設に対して、どのような監査、モニタリング、日頃の運営指導をしてきたか、など。

 それらの内容について、(1)(2)はさまざまな書類の精査、および検討部会委員が各施設を訪問して共有スペースや居室などを見学するとともに、1施設6~16人、総勢60人の管理職・現場職員をヒアリングした。(3)では、県庁内において2013年度までさかのぼる形で、当時、業務を担当していた県職員34人にヒアリングが実施された。

 ヒアリングでは施設職員からも、県担当者からも、業務に対する当時の状況や認識の振り返り、現状に関することが率直な言葉で語られ、報告書に記述されている。

 今回の報告書から垣間見える現場の状況は、全国の障害者施設でも見られることではないかと思わざるを得ない。その理由は、厚生労働省が毎年障害者虐待に関する調査結果を発表するなか、2019年の場合、結果全体の約3割が障害者福祉施設従事者によるもので、そのうちの約8割弱は知的障害者に対する虐待だった(※2)。つまり、決して、今回、検証を受けた入所施設、および監督責任のある県に限った話ではない。そこで、報告書の内容を詳しく紹介しよう。