インターネットの時代、なぜ日本からは新たな「ホンダ」「ソニー」が生まれなくなったのか。アップル、グーグル、アマゾンなど米国のメディア・情報産業の新陳代謝と成長の秘密を探った 『マスタースイッチ 「正しい独裁者」を模索するアメリカ』(飛鳥新社刊)の著者、ティム・ウー コロンビア大学法科大学院教授に、苦境にある日本経済、日本企業へのメッセージを聞いた。(聞き手/ジャーナリスト 大野和基)

Tim Wu
コロンビア大学教授。マギル大学卒、ハーバード大学ロースクール卒。FTC(連邦取引委員会)のシニアアドバイザーを務める。消費者はあらゆるネットコンテンツに自由にアクセスできるべきとする「ネットワークの中立性」を主張し、言論の自由や著作権についても発言。2006年、科学誌『サイエンティフィック・アメリカン』の「科学技術分野の50人のリーダー」の一人に選ばれる。近著に『マスタースイッチ 「正しい独裁者」を模索するアメリカ』(飛鳥新社刊)。
Photo by Kazumoto Ohno

――まずあなたのバックグラウンドを教えてください。

 私はワシントンDCで生まれましたが、父は台湾生まれの日本人で、名前はタケシでした。その後、父は台湾市民となり、それから中国市民となり、最後はカナダ市民になりました。名前はそのたびに変えています。母はイギリス生まれで、カナダで父と出会って結婚し、そのあとアメリカに住みました。両親とも科学者で、NIH(国立衛生研究所)で研究をしていましたので、私は元々科学に興味がありました。父は子どものころに亡くなり、それからしばらくはスイスに住みました。日本のようでとても住みやすい国でしたね。その後カナダに戻りマギル大学に、それからハーバード大学へ行っています。

――専攻は法律ですか?

 最初は、コンピューター・サイエンスです。最初の仕事はシリコンバレーでした。大学院ではロースクールに行きました。

――面白いですね。最初に科学をやり、あとで法律ですからね。

 手先が不器用で、多くの実験で失敗しています。元々言葉が好きなのですが、科学は言葉をあまり使わないので、言葉を多く使う法律に変えました。法律に関してはまったく知識がありませんでしたが。

――シリコンバレーでの仕事はコンピューター・サイエンス関連でしょうか。

 最初はコンピューター・プログラミング部にいて、そのあと戦略部のマネジャーでした。カナダではプログラマーとして働いていました。