白河 「競争して勝たねばならない」というような男性性のしがらみに縛られている人も多くいます。管理職になることが、幸せとか仕事の楽しみではないのに、目的がすり替わってしまっている。

石井 日本って役職という概念が大きいと思うんですよね。海外だと「Hi! Tom」とかって名前で呼んだりしますけど、日本は「課長」とか「部長」って呼ぶじゃないですか。役職で呼ぶと、その人自身ではなく「あなたは課長です」というメッセージを送ってしまいます。そういう文化も、自己実現の場としての仕事ではなくて、課長という役割を全うするのが仕事であると、暗に思わせてしまっているのかもしれないです。

今の時代、会社の仕事の意義をちゃんと語る必要がある

石井 リモートワークや副業の解禁の流れもあって、マネジャーやリーダーと呼ばれる人たちが仕事の意味や意義をちゃんと語る必要性が出てきました。会社を辞めても副業があるっていう人がこれからもっと増えていくわけですよね。他にもたくさん選択肢がある中で、自社の仕事を「意味や意義があるから・楽しいから・学べるからやり続けたい」と思ってもらえるかどうかが、これまで以上に大事になっています。つまりマネジャーは、かつてない時間争奪戦に巻き込まれています。リモートで会えない中、自社で働く意味をちゃんと言葉にしてあげられるかどうかがすごく大事だと思います。

白河 チーム内で、リモートワークしている人が2割を切ると、リモートワークしている側が不安になるというデータがあります(*)。また、部下よりも上司の方が不安だということも分かりました。上司はうまく仕事が回るのか不安でしょうがない。つい自分で手を動かして、長時間労働となった。だから、チーム全体で心理的安全性を高めていかないとマズいですよね。
テレワークにおける不安感・孤独感に関する定量調査

石井 「どうやったら心理的安全性を作れますか」というご質問に、私は「上司が心理的安全性に貢献する良いアクションを取ったら、お礼に行きましょう」と伝えています。

白河 「このとき声かけてくれてありがとうございました」みたいな。

石井 そうです。上司も、一見強気なリーダーだとしても、コロナも含めてこの変化の激しい時代です。手探りでマネジメントしているわけなんで、お礼を言うとすごくいいフィードバックになります。そんな中でお礼を言われると「あ、あのマネジメントは正解なんだな」と上司も学習して、次も同じ行動を取る確率が増えるんです。そうやって、チームは良くなっていく。

 ただでさえ、厳しい外部環境の中で私たちは仕事をしています。少なくとも組織・チームの中では罰の与え合いではなく、お礼を言い合うとか、「やって良かった」と思えるフィードバックを与え合って、気がついたら「意義あること・大切なことのために、楽しい努力をしていた」というのが、いい組織のあり方だと思っています。