多田修平陸上競技の男子100mで五輪代表となった“ダークホース”の多田修平。勝負強さの秘密は独自のトレーニングに(6月25日に行われた男子100m決勝でトップでゴールした多田) Photo:Toru Hanai/gettyimages

9秒台を誇るライバル勢を抑えて、東京五輪の陸上男子100m代表を射止めた多田修平(住友電工)。自己ベストが10秒01の伏兵を勝者に変えた最大の要因、メンタルの強さは高校時代の独特なトレーニングにあった。(ノンフィクション・ライター 藤江直人)

ロケットスタートで9秒台選手を圧倒
勝負強さを形成したのは高校時代だった

 わずか10秒あまりの勝負で天国と地獄とが分け隔てられる。緊張と興奮が交錯するだけではない。人生で初めて経験する壮絶なプレッシャーを誰もが感じていたはずだ。

 東京五輪の代表枠「3」を懸けた一発勝負。6月25日に行われた陸上日本選手権の男子100m決勝は、9秒台を誇る4人が顔を合わせる歴史的なレースとなった。

 9秒95の日本記録保持者・山縣亮太を筆頭に、9秒97のサニブラウン・アブデル・ハキーム、そして9秒98の桐生祥秀と小池祐貴。しかし激戦を制したのは、自己ベストが10秒01のダークホース的な存在の多田修平だった。

 得意のロケットスタートで一気に飛び出す。序盤から中盤にかけての加速を武器とする山縣をして、レース後に「ものすごく速くて焦った」と振り返らせたほど、大舞台で多田が見せた会心の走りはライバル勢にさらなるプレッシャーを与えた。

 課題だった後半の失速を最小限にとどめた多田は、逆に走りが硬くなった山縣やサニブラウン、桐生、小池を寄せつけない。10秒15の初優勝。ヤンマースタジアム長居の夜空へ何度も拳を突き上げ、雄叫びを上げた多田は前日が25歳の誕生日だった。

「今日に懸けていました。最高の誕生日プレゼントになりました」

 ヒーローインタビューで目を潤ませた多田に東京五輪代表をもたらした、プレッシャーとは一切無縁で、なおかつ自身のストロングポイントを最大限に発揮させた、平常心に裏打ちされた走りの源泉は何なのか。答えの一端は高校時代にある。