迷走する日本政府

 自宅療養を強いられて亡くなった感染者の話を、ちらほら報道で見聞きする。「重い肺炎ですぐに入院が必要なのに、亡くなる直前まで入院できない人が何人もいた」と涙ながらに訴える医療関係者の声や「ベッド横にて仰臥位(ぎょうがい)で死亡しているのが発見された」と60代男性が受け取った母親の死体検案書の内容を目の当たりにして、問題の深刻さにショックを覚えた。

 Sさんの体温がようやく下がってきた3日の午後、田村憲久厚労相は会見で、新型コロナウイルスの感染拡大地域で入院できるのは、重症者や重症化するリスクの高い患者に限定するとの政府方針を明らかにした。中等症でも「比較的(症状が)軽い方は在宅(療養)をお願いしていく」と説明し、「場合によっては在宅で酸素吸入することもありえる」との認識を示した。この方針は結局修正されたが、言い換えれば、医療現場が半崩壊状態にあることを認めたとさえ受け取れる説明だ。

 現場にいる医療関係者の大変さは目に浮かぶようで、理解しているつもりだ。救急車がたらいまわしにされている現状を見せつけられても、医療機関を非難する意図はまったくない。しかし、なぜ日本がこれほどまでに自宅療養を感染者に強いるのかは、まったく理解できない。政府の管理責任にどこか狂いが生じたのではないか。大雨による洪水で300人以上の死者を出した中国河南省鄭州市の省・市政府責任者が見せた混乱ぶりと大差はないと思った。

 日本政府は迷走する姿を完全に露呈してしまったのだ。