国防も危うい!将来はシニア部隊だらけ?

「自衛官候補生の採用者数は14年度以降、6年連続で計画を達成していない。19年度の採用数は海自と空自の計画が1割ほど下回った。18年度には陸海空全体の採用達成率が7割にとどまった」(日本経済新聞2020年11月20日)

 実は我々の生命・財産を守ってくれる自衛隊は人口減少でずっと定員割れが続いているのだ。それを補うため、「女性自衛官登用の推進」や「採用年齢の引き上げ」、さらには民間企業同様に「定年退職者の再任用」を進めているが、焼け石に水だ。日本の人口減少のペースは年を追うごとにきつくなっていくからだ。

「多少の人員不足も、世界一優秀な自衛隊ならば対応できる!」という戦時中の大本営みたいなことをおっしゃる方もいるだろうが、現実問題としてこの人員不足が、国防の「穴」をつくっている。

 昨年10月、自民党の国防議員連盟が、中国や北朝鮮の脅威に備えるため、新型イージス艦2隻を増備するように岸信夫防衛相に求めたが、「海自は人員不足を理由に増備に後ろ向き」(日経新聞・同上)だった。イージス艦はハイテク機器の集合だが、運用には1隻300人の人員が必要となる。定員割れが続く海自で600人をいきなりイージスに当てろ、というのは現場にとってかなりご無体な要求なのだ。

 もちろん、国家と国民を守る強い使命を抱く自衛隊の皆さんはそんな弱音は絶対に吐かない。しかし、言葉にしなくとも彼らが苦しい立場に追い込まれているのは、「再任用された定年退職者」の扱いを見れば明らかだ。

 日本経済新聞(19年5月20日)によれば、17年度末で951人いた再任用自衛官の多くは、体力を考慮して、総務や会計などデスクワークについていた。しかし、19年からは艦船の乗務員として「復帰」させる検討がスタートしている。言わずもがな、中国や北朝鮮の脅威が高まっているにもかかわらず、いつまでたっても定員割れしているからだ。

 つまり、今のまま「人口減少」という問題をスルーしたままいけば、そう遠くない未来、人員不足をカバーするため「定年退職した自衛官」が中心となった“シニア部隊”が国防の最前線へ送り込まれることも十分あり得るのだ。

 政治家は「この美しい国を守れ!」「中国や北朝鮮に対して毅然に立ち向かう!」と格好いいことはいくらでも言えるが、慢性的な人手不足に苦しむ現場からすれば、たまったものではない。

 これはブラック企業の経営者が、現場で不眠不休で働く現場の疲弊を無視して、「よし!これからはDXだ!推進する新規プロジェクトを立ち上げるぞ」なんて言い出して、社員たちの心をポキンと折る構図によく似ている。