第3回伊藤忠は社員の残業を禁止し朝型勤務にシフトした(写真と本文は関係ありません) Photo:JIJI

社員の残業を禁止し
朝型勤務にシフト

 仮に、業界他社が首位を狙おうとするのであれば、伊藤忠がやった社内改革、労働環境の整備を調べて、良いところはまねをすればいい。しかし、その形跡はない。特に労働環境の整備を学んだ様子は見られない。

 業界他社が追随してこないから、伊藤忠は自分の道を進んでいる。

 今や労働環境の整備、社員生活の変革は同社の個性となっているように見える。それもあって、業界他社と比べた場合、有利に働いている。

 大学生に「就職したい企業」を尋ねると、伊藤忠は業界トップになる以前から人気ナンバーワンだった。

 大学生は自分の未来を企業に託す。熱意と時間をかけて企業研究をしている。給料の額だけでなく、伊藤忠が社員にやさしい会社だとわかっているから同社を志望する学生が多いのだろう。

 さて、2013年、同社は勤務時間を会社方針として朝型にシフト。午後8時から午後10時までの残業は「原則禁止」、午後10時から翌日午前5時までの深夜勤務は「禁止」とした。

 商社は時差のある海外拠点との連絡もあるから、夜中まで仕事をするのが常識とされてきた。また、残業した後、一杯飲んで帰るのは日本のビジネスパーソンの体質になっている。さらに、残業代は給料の一部にもなっている。

 岡藤はそれをやめさせた。

 彼は言う。

「ネットの時代に夜遅くまで残って国際電話で話すことはない。メールに変えればいい。だいたい、今は会社にいなくとも国際電話なんか、どこからでもできる。それよりも早く帰ってご家族と楽しく過ごすこと。

 会社というのは人間の力を結集することしかないんだ。戦国時代の話になるが、少数だった武田の騎馬隊が相手を蹴散らして勝った…。結局、社員の士気をいかに上げるかなんだ。

 ある時まで伊藤忠の社員はモチベーションが低かった。なぜかというと給料が安い。それよりもっと大きかったのは会議が多いことだった。しかも、書類が煩雑。それは僕自身が社長になるまで、ずっとそう思っていたんだ。会議ばかりしていつ商売するんや。書類ばっかり書かされるけど、結局、ちょっと見ただけでそのへんに放ってしまう。こんなことではあかん。だからまず僕はやった。会議を減らそう。それで減らした。残業もなくした」