「憲法が保障する健康で文化的な最低限度の生活、すなわち『普通の暮らし』を営むために必要な額だからです」

 中澤氏は15年から、普通の暮らしを実現するための「最低生計費」を、労働組合と協力して全国調査している。ワンルームの賃貸マンション(25平方メートル)に住む一人暮らしの25歳男性を対象に、生活実態や持ち物の数量を調べ、必要な費用を積み上げた。

最低賃金は上がったが…AERA2021年11月1日号より 拡大画像表示

 その結果、最低生計費は全国どこも月24万~26万円(税・社会保険料込み)となった。法定労働時間(月173・8時間)で換算すると、時給1400~1500円ほどになった。お盆や年末年始に休みが取れることを前提に、月150時間の労働時間で換算すると、時給1600~1700円ほどになる。これを受け、最低賃金は「1500円以上が必要」という。

 さらに、中澤氏は「どこに住んでも1500円以上は必要です」と強調する。いま最低賃金が最も高いのは東京の1041円で、最低は高知と沖縄の820円だ。その差は221円あり、年約46万円の違いとなる。この差をなくすことが大切と説く。なぜか。

「都市は物価が高く生活費がかかり、地方は物価が低いので生活費も安いといわれてきました。しかし、調査からは東京で暮らすのも沖縄で暮らすのも、ほぼ差がないことがわかりました」

 例えば、住居費は都市では高く地方は低い。だが、都市は電車やバスなど公共交通機関が発達しているため移動にあまりお金がかからない。反対に、地方は家賃が安く済むかわりに自動車がないと生活が成り立たず、車の維持費がかかる。その結果、総額の最低生計費は同じ水準になってくるという。

「都道府県別に格差づけられた最低賃金は、経済の地域間格差を生み、若者の地方から都市への人口流出を招いています。これを防ぐためにも、最低賃金を全国一律で1500円以上にする必要があります」(中澤氏)

 賃金に詳しい都留文科大学の後藤道夫名誉教授は、大事なことは最低賃金を1500円に上げることで、正社員女性の低賃金労働者の平均賃金アップにもつながることだと語る。

「日本型雇用は男性が世帯主の労働者を対象としています。そのため女性は正社員でも賃金が低くなっています。例えば、20年の最低賃金の1.3倍未満で働く低賃金労働の正社員の割合は、男性の8.1%に対して女性は17.8%と、2倍以上の差があります。また時給1500円未満で働く人の割合は、女性正社員で49.8%にのぼります。最低賃金が上がれば、最低賃金に近い上の額の賃金も上昇圧力を受けます。そのため、最低賃金のアップは『最低賃金+α』で働く人たちの賃金も上げる可能性が高いのです」