2012年11月末に刊行された『【新訳】積極的考え方の力』
著者のノーマン・V・ピールは、デール・カーネギー、ナポレオン・ヒルと並ぶ、自己啓発の御三家と言われている。本書は、彼の代表作であり、41ヵ国で翻訳され、全世界で2000万部、60年間読まれている名著である。
新訳を担当してくれた月沢李歌子さんに、本書の魅力を語ってもらった。

「幸福」「希望」「成功」は、
自分で意識的に取り込める

「ああ、幸せ」という言葉が思わず口をついて出る瞬間が、人生には何度かあります。そうつぶやくことで幸せをさらに強く実感する、幸福感が持続して嫌なことやつらいことがあっても気にならない――そんな経験は誰にでもあるでしょう。
 しかし、現実には、日々の問題に直面していたり、時間に追われていたりして、「忙しい」とか、「大変だ」とかいう思いにとらわれがちです。
 では、もし一日に必ず何度か「ああ、幸せ」と思うことができたら、毎日はどう変わるでしょうか。おそらく、明るさと他人への思いやりと、前向きな気持ちに満ちたものになるのではないでしょうか。

 ポジティブシンキング(積極的考え方)の実践者は、幸福や希望や成功に対する前向きな気持ちを、意識的に自分の考え方のなかに送り込んでいます。そして、ポジティブシンキングという言葉をアメリカで初めて使ったのが、本書の著者ノーマン・V・ピールです。
 1952年に出版された『The Power of Positive Thinking』(本書原書)は大ベストセラーとなり、著者は、デール・カーネギー(『人を動かす』)やナポレオン・ヒル(『思考は現実化する』)に並ぶ自己啓発の大家と称されるようになりました。
 本書の著者ピールやカーネギーが積極的で前向きな態度を重視するのは、そうすることによって”引き寄せの法則”が働くと考えているからです。

 たとえば、本書で紹介される例のひとつとして、次期社長と目されながら、外部からやってきた人物に新社長の座を奪われてしまった男性の話があります。男性の妻は憤り、「言いたいことを言って会社を辞めるべき」と主張しますが、男性自身は、これまで通り会社に残り新社長に協力していくべきかもしれない、と感じています。
 ふたりから意見を求められた著者は、心を平静に保つよう提案します。恨みや憎しみといった消極的な考え方は、魂を蝕むだけでなく、思考プロセスも混乱させるからです。そして、新社長の幸運と男性がこれまで以上に会社に貢献できるよう、夫妻とともに祈ります。そうすることで落ち着きを取り戻し、男性は、新体制を支え、新社長から大きな信頼を得て、2年後に次期社長に任命されます。
 そもそも男性はナンバーツーの立場でしたから、順当な人事といえばそれまでですが、もし、妻の言葉に従って会社を辞めてしまえばこの機会は得られなかったわけですし、新社長に敵意を抱いて経営陣を混乱させてしまえば、次期社長として認められなかったかもしれません。
 また、本書に記述はありませんが、腐ることなく積極的に新経営陣に貢献したことで、同僚や部下のさらなる信頼を得たはずです。それが、社長就任後に大きな力になることは容易に想像できるでしょう。
 こうした難しい状況にありながらも、前向きに新社長のために力を尽くしたからこそ、この男性は「幸福」を引き寄せることができたのです。