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開沼博 闇の中の社会学 「あってはならぬもの」が漂白される時代に
【第14回】 2012年12月4日
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開沼 博 [社会学者]

第14回
手榴弾を投げ込んだ彼が消えるまで――

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週刊誌のみならず、テレビ・新聞でも「半グレ」という単語を目にするようになったのはつい最近のことだ。暴力団でも、単なる不良集団でもない、社会を漂う存在の台頭が注目される一方で、旧来のアウトローの依って立つ場に大きな地殻変動が起こっていると指摘する者もいる。
社会学者・開沼博は、半世紀を生きてきた一人のアウトローの過去、そして現在を追う。恐怖感と親近感の手綱を絶妙にコントロールすることで、社会に溶け込み生き長らえてきた彼は、手榴弾を投げ込んで逮捕された。彼はなぜ、そこまでの状況に追い込まれたのだろうか。小野が歩んできた道のりからは、時代の変化に適応しようとも、「あってはならぬもの」とされていく旧来アウトローの姿が見えてきた――。
連載は全15回。最終回となる次回更新は12月18日(火)を予定。

大田からの電話で知った小野の逮捕

 「小野さん警察に捕まったってさ。手榴弾投げたってよ」

 それは大田からの久しぶりの電話だった。「おー久しぶり。小野さんどうなったか知ってるか?」と尋ねられ、気になってはいたものの素直に「知らない」と返答したところ、突然そう告げられた。

 「今日たまたまネットで名前検索してみたんだよ。そしたら……」

 少し興奮した口調で話し続ける大田から、小野の行方が語られた。大田から何度か聞いていた彼の近況が蘇ってくる。

 大田が小野とはじめて出会ったのは、ある年の秋のことだった。山手線沿いの駅から歩いて5分ほどのマンションの一室には、すでに何人かの「プロジェクトメンバー」が集い、目の前に並べられたパソコンに向かっていた。

 「わざわざありがとうございます。恥ずかしながらわからないことが多くて、ぜひ一度見て頂けませんか」

 50代半ば。短い白髪に鋭い目つき。しかし、それに似合わぬ過剰な腰の低さと笑顔。当時の小野は、知人のツテ、そのまたツテを頼りに、手当たり次第に「プロジェクトメンバー」を集めているところだった。

 大田は、普段はWEB制作の仕事などを手伝っている知り合いの映像制作関係者から、「今、大きな仕事が入っていないんなら、ちょっと手伝ってくれないか」と声をかけられ、その場所を訪れた。

 初対面の小野に、「パソコンができるそうですね。会員向けに有料動画の案内を送りたいんだけど、やってもらえますか?」と伝えられ、「まあ、とりあえず見てみます」と答えたところ、いつのまにか「プロジェクトメンバー」となっていたのだった。

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開沼 博(かいぬま・ひろし) [社会学者]

1984年、福島県いわき市生まれ。東京大学文学部卒。同大学院学際情報学府修士課程修了。現在、同博士課程在籍。福島大学うつくしまふくしま未来支援センター特任研究員。専攻は社会学。学術誌のほか、「文藝春秋」「AERA」などの媒体にルポ・評論・書評などを執筆。
著書に『漂白される社会』(ダイヤモンド社)、『はじめての福島学』(イースト・プレス)、『「フクシマ」論 原子力ムラはなぜ生まれたのか』(青土社)、『地方の論理 フクシマから考える日本の未来』(同、佐藤栄佐久との共著)、『フクシマの正義 「日本の変わらなさ」との闘い』(幻冬舎)『「原発避難」論 避難の実像からセカンドタウン、故郷再生まで』(明石書店、編著)など。
第65回毎日出版文化賞人文・社会部門、第32回エネルギーフォーラム賞特別賞。

 


開沼博 闇の中の社会学 「あってはならぬもの」が漂白される時代に

不法就労外国人、過激派、偽装結婚プロモーター、ヤクザ、チーマー、売春婦……。彼らはときに「アウトロー」や「アンダーグラウンド」と評され、まるで遠い国のできごとのように語られてきた。しかし、彼らが身を置く世界とは、現代社会が抱える矛盾が具現化された「ムラ」に過ぎない。そして、「あってはならぬもの」として社会からきれいに“漂白”されてしまった「ムラ」の中にこそ、リアリティはある。
気鋭の社会学者である開沼博が、私たちがふだん見えないフリをしている闇の中へと飛び込んだ。彼はそこから何を考えるのだろうか? テレビや新聞を眺めていても絶対に知ることのできない、真実の日本を描く。全15回の隔週火曜日連載。 
 

「開沼博 闇の中の社会学 「あってはならぬもの」が漂白される時代に」

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