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開沼博 闇の中の社会学 「あってはならぬもの」が漂白される時代に
【第12回】 2012年11月6日
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開沼 博 [社会学者]

第12回
違法ギャンブルの現在
闇に眠ったはずのカネと欲望の在り処

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競馬、競輪、競艇、パチンコ……日本中至るところに遊興施設は存在し、そのCMにはアイドルやお笑い芸人が起用されるなど、公営ギャンブルは私たちの日常に当たり前のようにとけ込んでいる。しかし、その一方では、尽きることのないカネと欲望を原動力として、現代日本の「貴族」から酔っぱらいサラリーマンまでを虜にする、闇の賭博場の拡大が助長され続けてもいるのだ。
社会学者・開沼博は、闇バカラ、闇スロット、そして野球賭博の現場に潜入した。そこには、あるときは繁華街の雑居ビルや路面店舗で、そしてあるときは携帯電話のメールを舞台に、数百万から数千万のカネが一晩で眠りを覚ます地下経済が存在していた。
公然に認められたギャンブルが林立するにもかかわらず、彼らを違法ギャンブルに駆り立てる動機とは何か。連載は全15回。隔週火曜日更新。

新宿の雑居ビルで大金を動かす「闇バカラ」

 肌寒い新宿。紹介者のMに連れて来られたのは、路地裏の雑居ビルだった。

 ビルの看板には、各フロアで営業しているバーやスナックの名前が載っているが、何も書かれていないフロアが一つ。エレベーターはそこで止まった。

 Mに促されて降りてみると、そこには大人3人がやっと立てるくらいの小さなスペースがあり、緑地に白で「非常口」と書かれた誘導灯の光が、月明かりのように互いの顔を照らす。

 私の目の前に立ちふさがるのは防火扉一枚。エレベーターが降りていったのを見届け、天井に設置された不自然な防犯カメラを見ながらMが電話をかけると、防火扉の中から戸が開けられ、光が漏れた。

 20畳ほどのスペースにバカラ台が3台。正装をしたディーラーとホール係の若い女性が、ホテルマンのような落ち着いた立ち居振る舞いで「いらっしゃいませ」と声をかけてくる。

 先客は10人程度だろうか。各テーブルに散らばって座っている。

 ホスト風の若者、IT社長風の中年、資産家風の年配者……「金を持ってそう」という以外に共通点を見出だすことが困難な大人たちが、1回当たり5万円~数十万円をチップに換金している。

 すべての客は紹介制で、高額所得者同士の繋がり、あるいは、高級クラブのホステスや高級風俗店の上客を抱えたキャッチ、マージャン店の経営者などを通して店を訪れるという。むやみに客を増やしても摘発の可能性も増すばかりだが、高い金を持続的に落とす客はつかまえたい。店側は限られたルートを駆使し客を集めている。

 彼らが求めるのは「バカラ」――。邦訳すれば「0(ゼロ)」あるいは「破滅」という意味を持つそのゲームは、現代日本の闇の中に確かに生き続けている。

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開沼 博(かいぬま・ひろし) [社会学者]

1984年、福島県いわき市生まれ。東京大学文学部卒。同大学院学際情報学府修士課程修了。現在、同博士課程在籍。福島大学うつくしまふくしま未来支援センター特任研究員。専攻は社会学。学術誌のほか、「文藝春秋」「AERA」などの媒体にルポ・評論・書評などを執筆。
著書に『漂白される社会』(ダイヤモンド社)、『はじめての福島学』(イースト・プレス)、『「フクシマ」論 原子力ムラはなぜ生まれたのか』(青土社)、『地方の論理 フクシマから考える日本の未来』(同、佐藤栄佐久との共著)、『フクシマの正義 「日本の変わらなさ」との闘い』(幻冬舎)『「原発避難」論 避難の実像からセカンドタウン、故郷再生まで』(明石書店、編著)など。
第65回毎日出版文化賞人文・社会部門、第32回エネルギーフォーラム賞特別賞。

 


開沼博 闇の中の社会学 「あってはならぬもの」が漂白される時代に

不法就労外国人、過激派、偽装結婚プロモーター、ヤクザ、チーマー、売春婦……。彼らはときに「アウトロー」や「アンダーグラウンド」と評され、まるで遠い国のできごとのように語られてきた。しかし、彼らが身を置く世界とは、現代社会が抱える矛盾が具現化された「ムラ」に過ぎない。そして、「あってはならぬもの」として社会からきれいに“漂白”されてしまった「ムラ」の中にこそ、リアリティはある。
気鋭の社会学者である開沼博が、私たちがふだん見えないフリをしている闇の中へと飛び込んだ。彼はそこから何を考えるのだろうか? テレビや新聞を眺めていても絶対に知ることのできない、真実の日本を描く。全15回の隔週火曜日連載。 
 

「開沼博 闇の中の社会学 「あってはならぬもの」が漂白される時代に」

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