ゴーン失脚後の日産は、経営陣の混乱や業績の悪化(赤字転落)から再建策に奔走する事態となった。一連の混乱の後、19年12月に新社長に選ばれたのが内田誠氏だ。内田新体制は、ゴーン長期政権による拡大戦略のツケによって生じた業績悪化・赤字転落からの立て直しという大命題を抱えてのスタートとなった。

 新体制下では事業構造改革を中心とする「NISSAN NEXT」の中期計画を策定。日産ブランドの毀損(きそん)、収益バランスの立て直しを図っており、日産は現在のところある程度再生の道を歩んでいる。先の22年3月期上期決算では今期の連結営業損益が1800億円の黒字になる見通しであると発表した。1800億円の黒字転換は営業利益率2%の改善となる。

 この業績回復を受け、次なる成長のステップを示すために発表されたのが「Nissan Ambition 2030」の長期ビジョンという位置づけだ。

 その内容は、今後5年間、26年までに約2兆円を投資し、電動化を加速する。2030年度までに電気自動車15車種を含む23車種の「ワクワクする新型電動車」を投入し、グローバルの電動車を50%以上に拡大する。さらに、次世代車載電池の切り札といわれる全固体電池実用化の技術開発にめどをつけ、24年度に横浜工場にパイロット生産ラインを立ち上げるほか、28年度までには全固体電池搭載EVを市場投入する――というのが概要である。

 ちなみに、この長期ビジョンが発表されて1週間が経過した12月6日、カルロス・ゴーン元会長は逃亡先のレバノンから日本外国特派員協会のオンライン会見に参加して、「電動化戦略を中心とするこの長期ビジョンは具体性がない」と批判した。ゴーン元会長は、「2兆円の原資はどこから出るのか、他のプロジェクトを捨てないと実現不可能だ」などと発言し「この長期ビジョンは感心できない」と切って捨てたのだ。

「どの口が言わせるのか、あんたが言うな」と思う読者も多いと思うが、まくし立てる言い方はいかにもゴーン氏らしく、また発言にも一理あるといえる。

 日産が業績立て直しに躍起になっていた間に、世界の電動化競争はどんどん過熱している。10年に世界初の量産EVとしてリーフを送り出したトップランナーとしての影は薄くなり、いまやEV専業の米テスラをトップとする世界のEV市場で日産の販売台数はトップ10にも入らない。