「日本人は世界でもっとも文明化(civilized)された国民だ」と、私の友人は言う。彼は元々フランス人だったが、その後に帰化してアメリカ人になった。今でも米国の新聞とフランスの雑誌には目を通し、年に一度は、欧州、日本、中南米に旅をする。奥さんが日本人なので、日本によく来るが、「日本人は礼儀正しく、暴力に訴えることはないし、食事は洗練されているし、世界最高の文明人と文明国である」と言う。

「暴力に訴えることがない」のは文明人としての重要な条件である。尖閣諸島の国有化に端を発した中国国民(その背後には中国政府)の日本大使館と日系企業への襲撃事件について、日本国民は国内の中国人に報復することはなかった。日本の大使が乗った公用車への襲撃でも、日本政府は抗議はしたものの、至極穏便に対応した。昔なら外交的応酬が起きてもおかしくない事態だった。

 韓国では、韓国企業が日本企業と比べて現時点で有利に国際展開している事情もあり、国内ではナショナリズムが盛り上がっている。竹島への李明博大統領の訪問はそれに勢いをつけたものだ。だが日本の報道機関は李大統領が次期大統領選挙を有利に展開するためのポーズに過ぎないと受け止めた。多くの日本国民は不快感を持ったものの、それ以上事を荒立てることはしなかった。

 東日本大震災は世界中に瞬時に映像報道されたが、日本人は粛々と行動した。略奪などは起きなかった。さらに追い討ちをかけた福島原発のメルトダウンでは、事故を起こした背後にある日本政府、東京電力の無責任体制に世界は唖然とした。日本国民はデモはしたものの、最後まで暴力に訴えることはなかった。ほかの国であったなら、動乱が起きても不思議ではなかった。

 11月20日に玄葉外務大臣がニューヨークタイムズに「岐路に立った日中関係」(Japan-China Relations at a Crossroads)という記事を投稿した。尖閣諸島の国有化の正当性を説明する記事であった。やや長くなるが、筆者なりの抄訳でご紹介したい。

 尖閣諸島の国有化に端を発した中国国内の暴動で日本企業が蒙った被害総額は1億ドル(80億円)に上ったが、日本は一貫して情勢に冷静に対応した。それはいままで日本が主張してきた戦略的互恵関係を貫くためであった。