優秀な若手を辞めさせないためには何をすべきか優秀な若手に去られるのは誰のせいなのか?(写真はイメージです) Photo:PIXTA

 有名企業のちょっと「偉め」の人が集まるある会合に出た。とはいっても、もともとの友人たちが時間を経て偉くなっただけだから、遠慮なく言いたいことを言う会である。

 ある人が、「最近は優秀な若手から辞めて困る」と言ったら、他の人たちも「うちもそうだ」と同意の声が上がった。そうすると、ある会社の人事担当役員が「うちもそういう話が話題に上るようになったので、本当にそうかと思って調べたら、人事考課と早期離職には、何の関係もなかった」と述べた。そうすると他の出席者が「だから、おまえら人事というのはバカなんだ。優秀な若手というのは、着眼点が優れている。行動範囲が広い。面白い活動をしている……といった意味であって、現場仕事の評価が高いかどうかという話ではない。そんなことすらわかってないのか」とけんもほろろである。そして周囲の全員から人事役員は袋だたきに遭っていた。ただ、人事の役員は調査の結果を言っただけであり(別に人事考課の結果が優秀性を表すとはいっていない)、彼には同情もできたが、他の参加者の言うことにも一理あるなとは思った。

 では、本当に、着眼点が優れている。行動範囲が広い。面白い活動をしている……といった“優秀な若手”たちから有名企業を辞めるのであろうか?これを測定しようとすれば、まず優秀な若手とは何かを定義して、そのうえでサンプルを集めて調査しなければならないから、現実的には難しい。したがって印象論にならざるを得ないが、個社の事情をいろいろ聞く限り、どうもそれは事実のように思われる。

 その理由については、複数の観点から語ることができる。

【1】有名大企業で勤め続ける報酬の期待値は大きく低下

 日本総研の調査(2020年版)によると東証1部・東証2部上場企業2600社における社内取締役の平均年俸は3630万円である。もっともらってもおかしくない貢献度の高い人もいるだろうし、もらい過ぎの人もたくさんいるだろう。

 さて問題は、この報酬を得られるのがかなり先であるということだ。たとえば、大企業で、45歳で役員になれば相当早い。それでも大学卒業後、20年+αはかかる。デジタル化、気候変動対応などで大変革を余儀なくされている過去の王者である既存有名大企業が、20年後にそれなりに強い立場で存在している可能性がどれだけあると見積もれば良いのだろうか。

 これは昔から言われる話であるが、過去は、そうはいっても大企業が生き残ってきたのである。したがって、20年後の3600万円を現在価値に割り戻す際の割引率は何%にすべきだろうか。10%で割り戻すとたった535万円である。もし役員になれなければ、50歳半ばで給料半減である。役員になるためには、当人の実力も大事だが、運も大事である。これらのことを総合的に考えれば、報酬面からの期待値は決して高くない。

 一方、ベンチャーに入って中心人物として活躍しその会社が上場したら、期待できるキャピタルゲインによる報酬はとても大きく、大企業のサラリーマンなど比較にならないレベルとなる。もちろんその確率は決して高くないが、大企業で役員になり、かつその会社が20年先も安泰である確率も相当低い。そんなことで優秀な若手はベンチャーに流れる。