“〜べき”が裏切られることによって起こることは…

“〜べき”という信念は、多かれ少なかれ誰もが持っているもの。自分自身の信念が激しい怒りを引き起こすのはどのようなメカニズムだろうか。安藤さんはライターの火を例にあげて説明する。

安藤 着火スイッチは、自分が信じている“〜べき”が裏切られることです。「人前ではマスクをすべき」と思っている人の前にマスクをしていない人が現れたら、バチッと火花が散ります。ただ、それに対して腹立たしく感じる日もあれば、それほど気にならない日もあるでしょう。その違いは、ライターに充填されているガスの量です。ガスというのは、不安・焦り・孤独感・悲しみなどのマイナスの感情や、疲労感・睡眠不足・体調不良、ストレス過多などのマイナス状態のこと。無駄に怒らないようにするためには、“〜べき”が裏切られる回数(=着火スイッチが押される回数)を減らすか、マイナスの感情や状態(=ガスの量)を改善するか、そのどちらかしかありません。もちろん、両方できればベストです。

 

 着火スイッチとなる“〜べき”が裏切られる回数を減らすためには、思考のコントロールによって自分の許容範囲を広げるトレーニングが必要となる。

安藤 待ち合わせの時間について、「10分前には待ち合わせ場所に着いていないと許せない」という人もいれば、「遅刻しなければそれでいい」という人もいます。前者は許容範囲が狭い人、後者は広い人ですね。狭いことと広いことのどちらが正しいという話ではありません。しかし、許容範囲の広い方が “〜べき”が裏切られる回数は少なくなります。もちろん、許してはいけないこともたくさんありますが、いまの世の中、よく考えれば許してもいいようなことに対して狭量になっている人が増えていませんか? たとえ同意できなくても、思考のコントロールによって許容範囲を広げ、「そういうこともあるよね」という受け止め方ができるようになることは大切です。ただ、近年はインターネットによって、人はますます自分自身の信念である“〜べき”に固執するようになっています。カスタマイズできるニュースサイトではユーザーの関心が高い情報が表示され、SNSでは同じような価値観を持つ人たちが集まりがちです。その結果、幅広い考え方に触れる機会が失われ、結果、“〜べき”が先鋭化し、違いを受け入れることがますます難しくなっているのです。