職場で“正しく怒る人”はチームの生産性を上げられる

 2019年5月、改正労働施策総合推進法(通称:パワハラ防止法)が成立した。パワハラは許されないものだという認識は社会に根付いているものの、パワハラが通報される件数は減っていないようだ。一昨年(2020年)に行われたカスタマーハラスメント(悪質クレーム行為)についての調査(*2)では、「加害者は男性が7割、40代以上が9割」という結果もあり、それは多くの企業における管理職のプロフィールに近いものだ。“管理職世代”は怒りや苛立ちを他者にぶつけやすい傾向がある、という事実が明るみに出たともいえる。

*2 全国繊維化学食品流通サービス一般労働組合同盟「悪質クレーム対策(迷惑行為)アンケート調査結果」より(2020年10月)

安藤 怒りには男性ホルモンであるテストステロンが密接に関係しているため、一般論では男性の方が怒りっぽいと言えます。ただし、男性、女性にかかわらず、いまの時代に必要なマネジメントを求められる管理職に対するアンガーマネジメントの研修はもっと必要です。パワハラをなくすためには“法の整備”と“怒りのコントロール”の両輪が鍵となります。私のところにも「とても優秀なのに、パワハラをする社員がいる」という相談があるのですが、そもそもパワハラをする人は優秀ではありません。優秀な人というのは、“業務ができる人”ではなく、“生産性を上げられる人”。怒るときにも他者を傷つけることなく、結果的にチーム全体の生産性を上げることができる人です。

“アンガーマネジメント”が、いま、企業の人事部に注目されているのはなぜか?

 パワハラに紐づく相談事として、オンラインのコミュニケーションでは「部下への叱責がうまくできない」「上司へのネガティブな報告や発言が難しい」といったものも増えているという。コロナ禍でリモートワークが増えたことで、怒る側・怒られる側の双方に戸惑いが生まれているようだ。

安藤 顔を合わせていれば気軽に指摘できることも、オンラインになると話す方も聞く方も身構えてしまいます。ネガティブなフィードバックの場合は、オンラインであっても1対1の状況が望まれ、前後の説明を丁寧に行うことを含めて、事実をきちんと話すことが大切です。オンラインでは、対面で話すときのように以心伝心で気持ちが伝わることは期待できません。そして、その場でお互いの感情が整理できるまで話し尽くすようにしましょう。モヤモヤが残ると、疑心暗鬼になってしまいます。

 現在、日本アンガーマネジメント協会ではさまざまな研修を提供しており、多くの企業がリーダーシップ研修・ハラスメント研修など、従来の研修にアンガーマネジメントの研修を組み合わせて利用している。基本は、「衝動のコントロール」「思考のコントロール」「行動のコントロール」の学習だが、知識を学ぶだけではなく、怒りとつきあっていくためのトレーニング方法も身につけることができるという。

安藤 企業が行っている従来の研修にアンガーマネジメントを加えると、研修の内容がより生きるようになります。現在、アンガーマネジメント研修を導入しているのは、大手企業、とりわけコンプライアンスや人権啓発を重視している企業が目立ちます。