振り返れば、中国は常に全力で封じ込めに当たってきた。雪が降ろうと、凍り付くような寒さであろうと、人々は有無を言わさずPCR検査の列に並ばされた。わずか数名の陽性者が発見されるごとに、全市居住者を対象にPCR検査を行う徹底ぶりこそ、「ゼロコロナ」を実現するための方策だった。「今や『鼻の穴の奥にタコができた』が国民的挨拶です」(上海在住者)というコメントからは、いかに綿棒でつつかれてきたか、その苦しみの片鱗が伺える。

 しかし感染力が強く、また無症状感染者も多いというオミクロン株には、こうした徹底路線ももはや歯が立たない。これまでは無症状感染者に対しても厳格な診断を行ってきたが、オミクロン株の流行下では、中国政府も治療における路線も変更せざるを得ない局面に立たされている。

 中国国家衛生健康委員会は15日、「新型コロナウイルスの治療方法」を改定した「第9版」を発表した。このガイドラインによれば、無症状感染者の過度な診断を取りやめ、また軽症者はホテルなどでの集中隔離にとどめ、指定医院での入院治療の必要はないという。「ゼロコロナ」には必須だった「厳格な措置」を緩めた形だ。

上海では小区ごとの封鎖、深夜2時のPCR検査も!?

 強い感染力を持つオミクロン株は上海市をも直撃した。15日に上海市政府が行った記者会見によると、3月以降の急速な広がりで、同月1日から15日までに、市には合計94人の感染者と861人の無症状感染者を合わせた、計955人の症例があることを発表した。「一けた台」の感染者数を維持してきた上海市民からすれば、驚きの数字である。

 一方、上海市政府は「市ではロックダウンは必要としない」と述べており、2020年に湖北省武漢市で行われたような都市封鎖の考えはないことを示している。上海では現在、全面的なロックダウンに代わって、複数の住宅棟を一つの単位とする居住区(小区)ごとの封鎖措置が行われている。

 インターネット上ではさまざまな情報が飛び交っているが、ある小区では「今夜12時から48時間にわたり小区を封鎖し集中的なPCR検査を行う」という通知が出され、住民は夜中の2時に検査の列に並ばせられたという。

 筆者が上海市に滞在していたときにお世話になった閔行区在住のLさんに尋ねたところ、次のような状況が確認できた。

「うちの小区は幸い陽性者が出ていないので、封鎖されてはいません。出入りも自由ですし、買い物にも行けます。ただ、いつ封鎖になるかわからないので、ここ数日は食料備蓄のために食品スーパーを往復しています」

 ちなみに深セン市からは「フードデリバリーが注文殺到で注文できない」(日系企業の駐在員)などの悲鳴が上がっており、食卓の“食糧安保”は住民たちの間で喫緊の課題となっている様子がうかがえる。