いま中国人は中国をこう見る中島恵著『いま中国人は中国をこう見る』(日経プレミアシリーズ)

「マナーだけでなく、人あたりやサービスも良くなった」という話もよく聞く。それは中国人自身よりも、中国在住の日本人、あるいはコロナ前に出張で中国を訪れていた日本人からしばしば耳にする。

「中国人がみんな優しく、親切になった」「笑顔での温かい接客に感動して涙が出そうだ」という人もいる。このように言う人は、私のように以前の中国をよく知っている人だ。

 さらに、「駅員や銀行員、公務員などの態度も見違えるように良くなった」ともいう。これについては中国人自身も自覚していて、同感だという。在日中国人も、中国に久しぶりに帰国してまず驚くのが、街のインフラや高級ホテルなどのハード面の進化よりも、人々の穏やかさ、つまりソフト面の変化だ。ソフト面の変化は、写真だけではわからない。行って、接してみなければわからないから、強く実感するのだ。

 さまざまな手続きがデジタル化により簡略化され、行列などの待ち時間が減り、注文や支払いも簡単にできるようになったため、ストレスが大幅に減ったことも大きく関係している。デジタル化は中国人の心のありようにも大きな影響を与えたのだ。

 私自身も、コロナ前には定期的に中国を訪れ、中国人の接客やマナーの向上に感動していた一人だ。印象深く覚えているのは、2019年に深センを訪れたときのこと。切符の払い戻しのため、駅の窓口に並んでいたところ、割り込もうとした男性の高齢者がいた。周囲は見て見ぬふりをするか、あるいは怒鳴るのかなと思って見ていると、20代の大学生らしき男性が「すみません。みんなと同じようにきちんと並んでもらえませんか」と、その高齢者に冷静に声を掛けており、感心した。

 このときの出来事を別の中国人に話すと、その人はこう言った。

「今の中国が昔と大きく違うのは、若者たちですよ。若者はマナーやルールにとても厳しいんです。高齢者や中高年が道路に唾やたんを吐いたりすると、注意するのはたいてい若者です。マナーの悪い高齢者や中高年を嫌悪し、海外の人に対して恥ずかしい、同じ中国人として情けない、と心の底から思っているんです。彼らはSNSを通じて海外から多くの情報を得ているし、コロナ前には海外にも行っていて、国際的な感覚も身につけている。彼らの時代になれば、中国はもっと大きく変わると思います」

 確かに、生まれたときからネットがあり、世界中の情報を入手している若者は、世界と中国とのマナー面での“格差”も十分承知している。そこで、そのような行動を取り、マナーの悪い中国人に手厳しく接するのだ。