ビジネスの場でも安全な
ジャパニーズジョークのススメ

 ネタとしてどうしても笑いを取る話を用意しておきたいとしたら、今の時代、自分の失敗談がいいかもしれません。私は以前、とある場で、ある経営者を不愉快にさせてしまったことがあります。

 お取引先の方の紹介でその経営者に会わせていただき、いろいろと勉強させていただいたのですが、話の途中でその方が、「鈴木さんは誰からお給料をもらっていますか?」と尋ねてこられたので、ひと呼吸考えて、「わたしたち経営コンサルタントは、お客さまから給料をいただいているようなものです」と答えたのです。

 その瞬間、相手の方が不機嫌な表情をしただけではなく、傍らにいた紹介者の方もピシピシピシっと凍ってしまったのに気づきました。

 まさに、「やっちまったぁ」な瞬間でした。

 それでしばらくして話を切り上げられてしまい、半ば追い出されるとまではいいませんが、そそくさとその場を退去することになりました。

 帰り道で取引先の方が、「鈴木さん、ダメですよ。あの社長は“会社から給料をもらっている”と答える人に“そうじゃない、あなたはお客さまから給料をもらっているんだ”と教えるのを持ちネタにしているんですから」と注意されました。

 その失敗以降、私は、年配の方とカラオケに出かけても「マイウェイ」は決して歌わないように気をつけています。

 はい。ちょっと長めのエピソードにお付き合いいただいて恐縮ですが、この「ある経営者を不愉快に」から始まって「マイウェイは歌いません」までの文章が、今の時代にぴったり合ったジャパニーズジョークのネタの模範例です。

 こういった自虐ネタは笑いの大御所からは「おもろない」と一刀両断にされがちですが、ビジネスの場では安全です。

 笑いは、コミュニケーションの潤滑剤としてはとても大切な要素ですし、ビジネスはコミュニケーションの上に成り立つものです。だとしたら、ビジネスの場に持ち込む笑いの要素については、昭和の時代よりもずっときちんと頭を使って練りこんだほうがいい。ないしはそこまで力を入れるつもりがないのであれば、気楽に持ち込まないほうがいい。それが令和の時代のジョークの流儀だと私は思います。

 コンプライアンスが問われる時代です。以前のジョン・ウェインやハンフリー・ボガートがいた頃のハリウッドならウィル・スミスに拍手喝采で、逆にクリス・ロックに「なぜ殴り返さないんだ」と非難が集中したかもしれません。でも今は、「暴力は絶対に許されることではありません」という文字を入れないと、記事にすらできない時代。「暴力も言葉の暴力も許されない」ということを念頭において、行動することが求められるのです。

(百年コンサルティング代表 鈴木貴博)