ダイヤモンド社刊
絶版

「65歳の定年退職が間違っていることは、誰の目にも明らかである」(『変貌する経営者の世界』)

 ドラッカーは、65歳定年制はとうの昔に時代錯誤になっているという。定年年齢として65歳が定められたのは、19世紀のビスマルク時代のドイツであり、それが米国に導入されたのは第一次世界大戦時だったという。

 今日の高齢者の平均余命と健康度を考えるならば、当時の65歳は今日の75歳に相当する。当然、定年年齢は、75歳に延長すべきである。

 もちろんこれは、いまだに定年年齢が65歳にさえなっていない日本では、想像もできない主張である。しかしドラッカーは、「今日の65歳定年は、まったく健康で元気な人たち、能力も意欲もある人たちをゴミ箱に捨てているようなものである」と断言する。

 しかも、65歳定年は、年金制度にとっても、耐えがたい負担となっている。定年が65歳であったのでは破綻して当然である。

 ドラッカーは、米国で公的年金制度が創設されたのが1935年であり、当時の65歳以上人口と就業者人口の比は1対10だったという。だが、移民の流入と高出生率のおかげで社会の高齢化が最も遅れている先進国の米国でさえ、この比率は悪化する一方である。

 これからは、定年退職した人たちを扶養するために、働く者の所得は大幅に削られることになる。それでは社会が持たない。もちろん定年延長は、労働力の確保の観点からも必然である。

 ところが、定年を延長すれば、問題が解決するわけではない。

 第一に、誰もが納得しうる客観的な退職基準、しかも年齢以外の基準が必要である。

 第二に、働く人たちが退職を延ばすための動機づけが必要である。就業年数が長くなればなるほど、年金受給額が増えるようにしなければならない。

 第三に、一度退職しても働きたくなったら戻れるようにする仕組みが必要である。退職した人たちの多くが、自分たちが欲しかったものは、長期休暇にすぎなかったことを悟らされている。

「これからの時代においては、人生も仕事も、65歳から再スタートするという事実を受け入れなければならない」(『変貌する経営者の世界』)