侵攻した兵の24%に人的損害?
兵員数ではウクライナが圧倒的

 5月9日に英国のウォレス国防相は「ロシア軍の戦死者は約1万5000人」と述べた。

 負傷者は死者の2倍程度になるのが普通だから、これが正しければ、ロシア側の死傷者は4万5000人に達する。侵攻したロシア軍は15万人、それと協同している親露派民兵は約4万人だから計19万人とみられている。

 死傷者が4万5000人ならすでに約24%の人的損害が生じていることになる。

 ロシア陸軍は1991年のソ連崩壊時には140万人だったが、「ミリタリーバランス」(2022年版)によれば、現在は28万人(陸上自衛隊の2倍)に削減されている。かつては空軍に属していた名残で別組織の空挺軍が4万5000人、海軍歩兵(海兵隊)3万5000人を加えて地上戦兵力は36万人だ。

 しかしこの2カ月余りで4万5000人の死傷者が出ているとすれば、補充を急ぐ必要がある。

 だがすでに東部軍管区(東シベリアと極東担当)の兵員まで引き抜いてウクライナ戦線に投入した後だから、200万人の予備役兵の一部でも招集し穴を埋めるためには、「戦争宣言」をしたいところだっただろう。

 だが1年の兵役を終え、社会人となっている人々を招集するのは一大事だ。

 プーチン大統領が、「戦争宣言」で予備役兵を招集しようとすれば、「特別軍事作戦」と言いながら、大規模な戦争を始めてしまい、苦境に立っていることがロシア国民にも明白になる。

 このため戦勝記念日で戦争を宣言するのは、結局、見送らざるを得なかったと思われる。

 一方でウクライナ陸軍は12万5000人、空挺軍2万人、海軍歩兵6000人で地上戦兵力は計15万1000人。さらに内務省管下の国土防衛隊6万人、国境警備隊4万2000人を加えれば地上戦兵力は計25万3000人で、侵攻したロシア軍を上回る。

 そのほか徴兵制の兵役を終えた予備役兵が90万人とされ、若い予備役兵の一部だけを動員しても人数では、圧倒的にウクライナが優勢だ。

ミサイル戦の優位も危うい
誘導装置の部品は輸入に頼る

 ロシア軍は死傷者がますます増えるのを防ぐため、地上戦をなるべく避けて地対地ミサイルや航空機による攻撃、銃砲や艦砲の砲撃により、ウクライナ軍の基地や武器弾薬の集積所、交通・通信の要所、発電所や石油タンクなどなど軍事力の基盤を破壊して衰弱させ、相手の降伏か講和を求める戦略に切り替えた様子も見える。

 だが重要な施設は地下に移すなどの防衛措置も取れるから、ロシア軍がミサイルなどだけですべてを壊すことは困難だろう。

 地上戦からミサイルを主体にした戦いになっても、ロシアが優位に立つとは限らない。