経済学者のトマ・ピケティ氏が指摘して有名になった「r>g」の関係、すなわち資産のリターンの方が、経済成長率や賃金上昇率よりも大きいことは、経済格差拡大の大きな要因になっている。それだけに、裕福な資産家の資産所得を倍増すると必然的に経済格差を拡大することになり、岸田首相の一方の看板である「分配政策」と齟齬を来す。

 また、野党などからは「金持ち優遇だ」といったツマラナイ批判を呼び込むことになるだろう。

「金持ち優遇」は普通の国民に害がなければ本来問題はないはずだし、それで経済が活性化するなら国民全体のメリットになり得る。だが、「嫉妬」は強力な感情だし、何よりも税制がらみの政策を考える場合に、その規模を「値切られる」理由になりやすい点に注意が必要だ。

 さりとて、お金持ちの資産にもメリットが及ばないと、「資産所得の倍増」の達成は難しい。

「いい方法はないか」と考えてみたら、いい政策が一つあった。以下で提案しよう。

ターゲットはNISAか
「抜本的な改革」という強い言葉

「新しい資本主義」は、新しい資本主義実現会議の8回目(5月31日)になって、「新しい資本主義」の明細を述べた、まとまりのある文書が会議資料としてやっと登場した。表題は「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画(案)〜人・技術・スタートアップ投資の実現〜」だ。

 この文書の中に、「(3)貯蓄から投資のための『資産所得倍増プラン』の策定」(資料の7ページ目)には、過去20年間の日本の家計金融資産の伸びが米・英に比べて鈍いこと(米=3倍、英=2.3倍、日本=1.4倍)の紹介と共に、家計の預金が投資に向かうことの必要性が説かれている。これは、金融庁による、「つみたてNISA(少額投資非課税制度)」の説明会で頻繁に紹介された数値例とロジックだ。

 そのための施策としてこの文書には、「個人金融資産を全世代的に貯蓄から投資にシフトさせるべく、NISA(少額投資非課税制度)の抜本的な改革を検討する」と書き込まれている。この後、iDeCo(個人型確定拠出年金)などにも言及はあるが、「抜本的な改革」といった強い言葉はない。