海外旅行はぜいたく消費と捉えられる?

 コロナがまん延する前の2018年には、年間延べ1億5000万人の中国人が楽しんだ海外旅行(旅行消費は2770億ドル、数字は中国文化観光部)だが、気になるのは、財政難のため倹約令を唱える習指導部に国民の海外旅行がどう映るのか、ということだ。

 格差縮小のため富の分配を目指す共同富裕路線を掲げた習指導部は、「海外旅行はぜいたく消費だ」とも言いだしかねない。また、外貨準備高の減少を避けるためには、海外旅行での国民の散財も制限したいところだろう。あるいは、「海外で使う金は国内消費に回せ」という大号令がかかる可能性もある。

 目下、緊縮財政を敷く習指導部は公務員に対して、出国にかかわる費用、公用車の購入と運行にかかわる費用、公務接待費にかかわる費用の“三大経費”の圧縮を掲げており、「それら経費は2019年の81億元(約1620億円)から2021年には51億元(約1020億円)に削減された」(中国メディア「央広網」)。習指導部は、会議、出張、研修などにかかる移動経費も削減したい意向だ。

 日本のインバウンドを盛り上げた団体ツアーの中には、会議や研修・視察を名目にしたツアーも少なくなかった。しかし、このような緊縮財政下では公務員も海外渡航どころではない。ましてや民間企業に目を向ければ、ゼロコロナ政策で疲弊しインセンティブツアーどころではないだろう。頼みの中間層も“大失業時代”に直面し、それこそ海外旅行を楽しむ気分にはならないかもしれない。

海外旅行商品の販売はまだ

 今回、日本政府が解禁の対象にしたのは、中国を含む98の国と地域からの団体旅行客の訪日旅行だが、前出の旅行会社の担当者によれば「中国から海外に行くアウトバウンド業務の取り扱い開始の許可が下りておらず、今も弊社では海外旅行商品の販売は行っていない」という。

 中国側のアウトバウンドとは、日本からすればインバウンドを意味するが、コロナがまん延してからは、中国の旅行会社の中にはアウトバウンドの部署を丸ごと閉鎖してしまった企業もあった。この旅行会社も、海外に送客するアウトバウンド業務は復活していない。

 今後の動向を決めるのはゼロコロナ政策次第だが、「人の移動が厳しく制限される中国のゼロコロナ政策は、この先3年から5年は続くだろう」と予測する中国の政治学者もいる。ロックダウンは将来的にも繰り返される恐れもあるというわけだ。実際、上海でも再封鎖されるマンションが出てきている。

 もっともそれ以上に懸念されるのが、中国政府が意図的に観光客を送らなくなる可能性だ。一時期、中国人観光客が大挙して押し寄せた台湾も、アメリカ寄りの蔡英文政権が発足してからは鳴かず飛ばずとなった。その時と同じパターンで、日本がアメリカ寄りの立場をより強めれば、中国人団体客を“手札”として切ってくることもあるだろう。

 東アジア情勢に深い霧が立ち込める中、コロナとともに蒸発した中国からの“客足”は、一時的に戻ってきたとしても、「いつまた途絶えるのか」というリスクと常に背中合わせの状態にある。