「男らしさ」の価値観と
育児への関与で板挟み

 もともと「イクメン」という言葉が世に広まり始めたのは2009年頃のこと。翌10年には新語・流行語大賞にも選ばれ、「育てる男が、家族を変える。社会が動く。」をキャッチフレーズに、厚労省が「イクメンプロジェクト」を発足した。

 新たな父親像として誕生した「イクメン」だが、「父親が育児をするなんて当然で、イクメンという言葉でもてはやすことすらおかしい」と、そのワード自体が後進性の表れだとの声もある。その指摘の通り、日本は男性の家事、育児参加という点で諸外国から大きく後れを取っている。

 OECD(経済協力開発機構)が2020年にまとめた一日の生活時間の国際比較データ(15~64歳の男女を対象)によると、比較国中、有償労働時間が最も長いのは日本男性で452分(2位は韓国男性419分、3位カナダ男性341分)。また、無償労働時間(家事、育児等)が最も短いのも日本男性(41分)だった。(2位は韓国男性49分、3位イタリア男性131分)。

 世界的に見ても日本男性の有償労働時間は突出して長く、その分無償労働は女性に偏るという傾向が強い。

「日本では時間外労働の上限規制によって、それまで青天井だった残業時間が制限されるようになりました。ただ結局、自宅に持ち帰って仕事をするケースや、コロナ禍を契機とした最近のテレワーク推進の影響もあり、労働時間の実態は見えにくくなっています。

 長時間労働を強いられ、懸命に働いても、企業収益は内部留保として蓄積されて賃金に反映されないケースも少なくありません。家族を養い、出世するためには家庭を犠牲にしてもやむを得ない、という、いわゆる昭和の父親像とは違い、今は出世も難しい上に、家族と向き合う時間も十分に持てない、厳しい時代になっています」

 仕事と家庭の両立は女性だけの問題ではない。かつては稼いで出世する代わりに免除されていた面もある、育児という新たな役割を課せられた令和の男性にとっても、仕事も子育ても両方頑張ることは簡単なことではないようだ。

「男性に育児への関与、ワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)を保つことを求めるようになった一方で、本音の部分では、男性は出世し、一家の稼ぎ頭であるべきという旧来の『男らしさ』の価値観を、女性の側も社会の意識としても引きずっています。