男性自身はというと、実現が難しくなっていることに気づきながらも、いまだ『男らしさ』の呪縛から逃れられず、自ら志向しているケースが多い。極限まで頑張っているにもかかわらず、管理職ポストに就けないばかりか、給与が伸び悩み、自尊心を失っているなかで、今度は育児に関わる余裕がないことで責められる。八方ふさがりのケースも多数、見てきました」

 女性が職場での活躍を期待されつつ、依然として家庭でのケア役割を強いられているのと同様に、男性も二重拘束(ダブルバインド)を受けているのだ。そういった実情が、夫婦間の溝を深くしているケースも増えているという。子どもを育てやすい社会にするためには一体どうすればいいのだろうか。

「経済動向や社会構造、社会意識の変化によって、出世して社会的評価を得るべき、妻子の経済的、精神的支柱であるべき、弱音を吐いてはならないといった旧来の『男らしさ』を実現できず、苦しんでいる男性がいて、ますます増えているという事実に社会が目を向けるべきです。男性は『男らしさ』規範に従って自分の苦しさを打ち明けられないため、その生きづらさは世間に伝わりにくい。

 欧米では男性のためのジェンダー平等政策が進んでいます。男性の生きづらさ解消に向け、男性にプライベートの犠牲を強い、家庭でのケア役割の遂行を妨げている長時間労働の是正、公的機関による男性のための相談事業の拡充など、日本でも男性を対象としたジェンダー平等政策を積極的に推進していく必要があります。

 男性の生きづらさが少しでも解消されれば、子育てに携わる余裕もでき、それが女性の働きやすさ、生きやすさにもつながるのです」

 先日の会見で小池都知事は「胸を張って“育業してきます”と言える社会にしたい」と語った。制度があくまで建前のもので終わらないよう、社会全体の意識改革が必要だ。