不適切な治療によって
片頭痛の頻度が増える

 泣き頭痛が疑われる患者が、頭痛外来ではなく心療内科を受診することで生じる問題はほかにもある。

「時代を反映してか、昨今は多種多様な抗うつ薬の処方が可能になっていますが、片頭痛や緊張型頭痛には、以前から処方されている三環系といわれる部類の抗うつ薬(アミトリプチリン)が有効とされています」

 つまり、三環系といわれる部類の抗うつ薬であれば、うつ状態を改善するとともに、片頭痛や緊張型頭痛の治療も望める。

「しかし昨今は、副作用などの側面から、これらが抗うつ薬として処方される機会は少なくなり、現時点ではより抗うつ効果が高く副作用が少ないとされるSSRIやSNRIといった新たな抗うつ薬が処方されるケースが増えています。

 するとうつ状態は改善されるものの、片頭痛に対してはあまり効果がなく、患者さんが一番困っている頭痛の部分については取り残されてしまう。

 結果、片頭痛の部分も元気になり過ぎ、本来は月に数日ぐらいしか起こらなかった片頭痛が過度になって毎日のように起こるようになり、慌ててわれわれ、頭痛の専門外来に駆け込んで来られる患者さんが少なくありません」

 頭痛専門医であれば、まずは頭痛の部分に注目するため、悲しい出来事で生じる精神的な症状だけでなく、頭痛以外の吐き気や嘔吐、もしくは光、音過敏といった症状がある場合は片頭痛と診断し、片頭痛の治療を行う。

「泣き頭痛であるにもかかわらず心療内科でうつ病と診断され、抗うつ薬による治療を受けて頭痛が悪化した患者さんに対して、脳の活動状況をリアルタイムで見ることができる脳波検査を行うと、過剰な興奮状態が大脳全般に見られることが多いです。

 その場合、私は抗うつ薬の減量をお願いしていますが、うまく処方医とコンタクトがとれない際には、やむなくわれわれの外来で脳の過敏状態を改善し、片頭痛に対して予防的な効果を発揮するある種の抗てんかん薬(バルプロ酸ナトリウム)を追加処方せざるを得ないこともしばしばです。例えばエレベーターで5階まで行く際に、10階まで昇ってから5階まで降りるよりは、初めから5階まで行くか、もしくは6階まで行って1階降りる方が効率が良いのと同じことです」