そう教えてくれるのは、慢性頭痛の名医として知られる東京女子医科大学の脳神経外科・頭痛外来の客員教授である清水俊彦医師だ。

 泣きたいときには我慢しないで泣いた方がいいという話もよく聞くが、いくら泣いても癒やされない悲しみが、激しい頭痛の原因にもなるとは! まさに泣きっ面にハチ。この悲劇に追い打ちをかけるような頭痛は、いかにして起こるのだろうか。

「泣き頭痛の大部分は片頭痛です。悲しみで大泣きしているときには、脳の大きな血管は緊張状態にあり収縮しています。しかし一連の儀式が終わり、一息ついたとたんに一気に副交感神経が優位になり、脳血管が拡張し、血管周囲の三叉神経を刺激。その情報が大脳皮質で脳の過敏状態を来し、片頭痛として表現されるのです」

 一度このような状態に陥ると、最低でも3日間は脳の過敏状態が続くという。動くと痛みは増強され、吐き気や嘔吐(おうと)を伴い、また光や音にも過敏になるため、薄暗い部屋に引きこもってひたすら寝込むしかなくなってしまう。

 すると、さらなる悲劇が、泣き頭痛患者を見舞う可能性が出てくる。

泣き頭痛を発症した人が
「うつ病」と診断されてしまったら…

 ちょっと考えてみてほしい。

 もしも家族や友人が大切な人を亡くし、昼間もカーテンを閉め切ったまま何日間も寝込んでいるとしたら。食事も取らず、声をかけても「頭が痛い。放っておいてほしい」と突き放されたら、あなたはどうするだろう。

 清水医師によると、今どきは「うつ病」を心配して心療内科への受診を勧める人も多いらしい。自殺してしまうかもしれない、などと不安になってしまうのだ。

「そんなとき、本人が普段から、自分は片頭痛持ちであるという自覚があれば、いつもの片頭痛と同じだと理解しているので、頭痛外来へ行くはずです。でも、もしも本人にその認識がなければ、周囲の勧めに応じて心療内科を受診してしまいます」

 すると、どうなるか。

「症状を聞き出した心療内科の先生は、患者さんに起きている頭痛の部分についてはあまり重要視することなく、うつ病との診断を下し、抗うつ薬による治療を開始することが多いです。頭痛はあくまでもうつ状態に伴って起きた緊張型頭痛であり、うつ状態が治れば頭痛も収まると考えるんですね」