SNSで夫婦間の不満が噴出

 上海ではよほどの金持ちでない限り、市民の多くが集合住宅に居住している。家族3人が住む標準的な住宅は80~100平方メートルの3LDKが一般的だ。その閉ざされた空間に60日間も軟禁されれば、誰でも精神的にやられてしまう。劉躍さんによれば、「けんかなどしたことがない親戚夫婦も、ロックダウン中は殺気立っていた」という。

 都市封鎖の間、一部の富裕層を除く上海在住者は、いまだかつて経験したことのない飢えを抱え、生きるか死ぬかの瀬戸際にあった。そんな中で、夫婦は互いの“本性”を目の当たりにした。

 中国のSNSでは夫婦間の不満が噴出していた。たとえば、「妻が大事にとっておいた冷凍ギョーザを、本人に断りもせずに全部平らげてしまった夫の姿」を映した“怒りの動画”もその一つだった。

 食料難のロックダウン当時、いざというときのために冷凍庫で大切に保管していた手作りのギョーザを、こともあろうに夫はペロリと平らげてしまったのである。しかも妻の了承を得ないどころか、「一緒に食べる?」の声掛けすらなかったという。

 空腹を満たすためには袋麺もまた貴重な食材だったが、夫は自分だけのためにそれをゆで、ほんのわずかの量を子どもに分け与えただけで、「自分(妻)への分配はゼロだった」という家庭もあったようだ。

 それでも、これらの事例は「控えめ」なものと思わざるを得ない。

 中国では女性も負けてはおらず、舌鋒鋭く男性をやり込める。その口論は平時においても“泣く子も黙るすさまじさ”だから、“封鎖中の密室”では相当なエネルギーが爆発していたに違いない。

 他方、中国のある雑誌は、「DV夫」と一緒の空間に置かれた母子の苦しみを伝えた。妻はボランティアに助けを求めるも“ロックダウン”を理由に救済は遅れ、マンション内を逃げ回るしかなかった。都市封鎖により社会と切り離されてしまったこの母子にとって、自宅は最も危険な場所となっていた。

 なお、中国の司法機関のまとめによれば、中国の三大離婚原因は、(1)夫婦の不仲、(2)家庭内暴力、(3)別居・失踪だという。