SNSで国民から人気も
党内では「大衆迎合的」と批判

 全省庁でハンコを原則禁止にすることは、確かに難題ではあるが、役所の部長クラスが音頭を取れば実現できたレベルの作業だといえる。そのため「大臣が陣頭指揮してやることなのか」という疑念を呼んだのだ。

 河野氏は、政界で「一匹おおかみ」といわれ官僚に厳しいという。派閥やしがらみにとらわれない姿勢は河野氏の持ち味でもあるが、裏を返せば、仲間を募り、官僚と協力して難しい課題に粘り強く取り組む姿勢に欠けていると言わざるを得ない。

 こうした要因もあり、自民党内では、河野氏が小さな問題を取り上げて国民の怒りをあおって人気を得る「大衆迎合主義者」ではないかという疑念が広がっていた。これが総裁選での敗北につながった。

 約10カ月ぶりの閣僚復帰となった河野氏は消費者担当相として、旧統一教会などの「霊感商法」に関する検討会を設置すると表明した。

 この検討会の設置によって、霊感商法に苦しめられている国民の救済につながる可能性はある。だが、あくまで国民に向けた施策であり、党内の“あしき伝統”を内側から是正するものではない。自民党と旧統一教会を巡る根本的問題が解決するとはいえないのではないか。

 それどころか、今後も河野氏が、自身の取り組みを国民にアピールし続けた場合、党内では「大衆迎合主義者」という懸念が再び広がりかねない。同じ失敗を繰り返すのではないかと筆者は危惧している。

 この連載でも過去に説明したが、自民党は、党を挙げて旧統一教会を「集票マシーン」として利用してきた(第309回)。長年にわたって続く党全体の集票システムに問題があり、個々の議員の人間性に必ずしも問題があるとはいえない。

政治家個々人が“悪者”ではなく
党を挙げての集票システムが問題だ

 というのも、多くの自民党議員は、選挙に出馬する前から旧統一教会と関係があったわけではない。候補者として選挙区に入るとき、党や派閥の幹部などから、支持団体など票を入れてくれる組織や人にあいさつをするように指示される。

 候補者は当選するため、言われるがまま頭を下げる。こういう団体の一つに、旧統一教会がある。そして、候補者と教団の付き合いが始まるのだ。

 旧統一教会が霊感商法などの「反社会的活動」をしていることは候補者も知っている。しかし、知名度も権威もない新人に付き合いを拒否することなどできない。

 そして、一度票をもらった団体との関係を切ることは簡単ではない。票をもらえなくなったら、落選が怖い。「政治家は、選挙に落ちればタダの人」なのだ。
 
 だからこそ政治家は、教団の関連団体のイベントに祝電を送り、出席してあいさつする。教団関係者に政治資金パーティーの券を購入してもらうこともある。こうした付き合いは、水面下でずっと続いてきた。