真藤恒・日本電信電話公社総裁、岡崎久彦・外務省調査企画部長
 今回紹介するのは、「週刊ダイヤモンド」1984年2月25日号に掲載された、日本電信電話公社総裁の真藤恒(しんとう ひさし、1910年7月2日~2003年1月26日)と、当時外務省調査企画部長だった岡崎久彦(1930年4月8日~2014年10月26日)の対談だ。

 真藤は、石川島播磨重工業(現IHI)の社長だったところ、81年に同社出身で経団連の名誉会長(当時)だった土光敏夫に請われ、旧日本電信電話公社総裁に就任した。電電公社の最終代総裁、NTT初代社長・会長を務めた。土光が「ミスター合理化」と呼ばれたのに対し、真藤は「ドクター合理化」の異名を取り、官僚意識の強かった電電公社の体質改善を進める。当時の電電公社は国鉄(現JR各社)、日本専売公社(現JT)と共に国が全額出資する公共企業体として、国内の電信電話業務を独占的に運営していたが、これを民営化に導き、85年4月に日本電信電話(NTT)を発足。初代社長に就任した。

 一方、岡崎は外務省で外交情報の収集・分析を専門に行う調査企画部のトップを務める傍ら、長坂覚のペンネームで著した『隣の国で考えたこと』など数々の著書を上梓し、外務省きっての論客として知られた。サウジアラビアとタイで特命全権大使を歴任して92年に退職すると、外交評論家・政治評論家として活躍。安倍晋三元首相の外交・安保分野のブレーンでもあった。

 この対談が掲載された前年に、岡崎は国家戦略の欠如を憂えた『戦略的思考とは何か』を刊行したばかりで、対談は岡崎の説く「戦略的思考」をテーマに行われた。随所で2人の意見が一致しているのが面白い。

 例えば、「決断」について。「決断をなるべくしなくて済むというのが戦略の極意でしょうね」と岡崎が言えば、「決断ということは賭けということですから、一番やっちゃいけないことです」と真藤も返す。競争においては、情報の量と質がなにより大事で、情報を全て整理して情勢を見極めれば、決断などという行為は要らなくなるというのが2人の結論だった。(敬称略)(週刊ダイヤモンド/ダイヤモンド・オンライン元編集長 深澤 献)

相手がある戦略というのは
自分で決める政策とは違う

――今なぜ戦略的思考が必要なのかということについて、まずお話ししていただきたいのですが。

週刊ダイヤモンド1984年2月25日号1984年2月25日号より

岡崎 私はああいう本(注:『戦略的思考とは何か』中公新書)を書いてから、いろいろな方から戦略的思考についてというお話があるのですが、私が書いたのはもっぱら国家戦略とか、安全保障戦略だけです。よくビジネスにも経営にも役に立つのではないかと言ってくださるのですが、私の書いたことがたまたまビジネスとか経営とかにお役に立つのは望外の幸せだというだけのことです。

 端的に申しますと、国家戦略というのは要するに対外戦略です。従って外国を相手にするのですが、その場合に、相手がある戦略というのは自分で決める政策と違うのです。建設省が橋を造ろうと思ったら橋を造ればいい、反対する人があったら強制収容ということも可能です。