本書の分類に基づいて
KDDIの通信障害を読み解く

 冒頭でも少し触れたが、この障害が起きた要因は、メンテナンス作業時の「ルーターの経路の誤設定」だという。

 またKDDIは、誤設定の原因について「作業の事前準備(管理ルール、確認項目、承認方法)が不十分だった」と説明している。

 障害が大規模化・長期化した理由については「(誤設定により発生した)特殊なネットワーク状態での輻輳(ふくそう)制御が十分に考慮されていなかった」「複雑な輻輳状態を復旧させる手順が確立されていなかった」と説明している。

(注:「輻輳」とはインターネット回線などにアクセスが集中することを指す)

 これらの説明に鑑みると、今回の障害は、まさしく前述した「規則やマニュアル自体に不備や間違いがある」ことによって大問題に発展したといえる。

 邱氏は本書で「規則の設定が不適切」だと規則的エラーを起こしやすいため、まず「正しい作業フローが重要になる」と述べている。KDDIのメンテナンス作業や復旧作業の手順には、この前提部分に問題があったということになろう。

 また本書では、1986年に発生したチョルノービリ(チェルノブイリ)原発事故の主な原因も規則型エラーだと指摘している。

 ソビエト連邦(当時)政府の報告が正しいとすれば、この事故の要因は「運転員の規則違反の組み合わせ」だという。KDDIの事例とは異なり、規則(業務フロー)は正しかったとしても、それが守られないことでエラーが発生したケースだといえる。

「二者択一」はミスを呼ぶ
最低「五つ」の選択肢が必要

 最後に、前述した3分類の「知識型エラー」について、その根本原因となる五つのマインドセットも紹介しておきたい。

 その五つとは「妄信」「うぬぼれ」「無知の無自覚」「過去への執着」「二者択一の意思決定」だ。邱氏が立ち上げた企業に所属するジェイミー・オルモス氏が、ビッグデータ分析とAIを活用して発見したものだという。

 いずれも、エラーの背景にある心の緩みなどを端的に表現しているが、最後の「二者択一の意思決定」が特に興味深い。