私たちは、二つの選択肢から一つを選ぶことが習慣になっていると邱氏は指摘する。米国では民主党と共和党、同氏の故郷・台湾では民進党と国民党という二大政党があり、多くの有権者は選挙の際に「二つに一つ」を選ぶ。

 だが、二者択一の場合、得てして「好きか嫌いか」といった単純な判断に陥りやすい。MITの調査によれば、多くの判断基準に基づいて慎重に検討し、意思決定を「正解」に導くには、最低「五つ」の吟味された選択肢が必要という。

 この調査では、二者択一による意思決定の成功率は30%にとどまるが、「五者択一」の場合、90%にまで跳ね上がるそうだ。

 メリット・デメリットが異なる五つの選択肢があれば、さまざまな角度から予測やシミュレーションを行い、より成功確率の高いものを選ぶことができるというわけだ。

 ただし、選択肢が多すぎるのも考えものではないだろうか。本書の話題からは外れるが、コロンビア大学ビジネススクール教授のシーナ・アイエンガー氏は著書『選択の科学』(文藝春秋)で、有名な「ジャム実験」の結果を示し、「人は選択肢が多すぎると選べなくなる」という法則を導き出している。

 ジャム実験とは、スーパーマーケットのジャム売り場で、「24種類」のジャムを陳列した場合と、「6種類」のジャムを並べた時に、どちらの売れ行きがいいかを調べたものだ。結果は、6種類に軍配が上がった。試食に立ち寄った買い物客のうち、6種類の棚では30%がジャムを購入したが、24種類の棚では3%しか購入者がいなかった。

 邱氏らとアイエンガー氏の論を総合すると、ビジネスパーソンが意思決定や問題解決に取り組む際は、やはり選択肢を四つ~六つ程度に絞るのが良さそうだ。

 前例がない課題に直面した時は、まずブレインストーミングなどで、できるだけ多様な選択肢を作り出し、そこから絞り込んでいくのはどうだろうか。絞り込みには、KJ法(文化人類学者の川喜田二郎が考案したデータ整理法)や、ロジックツリーないしディシジョンツリー(決定木)などのツールが使える。

 こうして整理を行う過程で、さまざまな要素が勘案され、論理的に妥当な判断に行き着く可能性が高くなるはずだ。ヒューマンエラーのリスクも減らせる。

 本書は豊富な事例とともに、組織や個人にとって致命的になりかねない、あらゆるヒューマンエラーのパターンと原因を網羅している。ビジネスパーソンはそれらを知り、記憶の隅にとどめておくだけでも、日頃のミスを最小限にできるかもしれない。

(情報工場チーフ・エディター 吉川清史)

情報工場
「仕事のミスを減らす秘訣」をMITの博士が解説、3つの要因と対処法とは
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