今回の米国でのLGESとの合弁電池生産決定発表も、米国のEVシフト促進のタイミングと合致する。バイデン政権下で8月16日に成立した歳出・歳入法で、EV購入者に最大7500ドル(約100万円)の税控除の実施を決めたり、25日にはカリフォルニア州が35年にハイブリッド車を含むガソリン車の新車販売を全面禁止にしたりするなど、EVシフトが加速している。

 一方、北米以外に目を向けると、グローバルの電動化戦略では今後、ホンダにとって北米をしのぐ市場になった中国での電動化戦略が急がれることになる。また、欧州は、独フォルクスワーゲンのディーゼルゲートによってEVシフトへの転換を余儀なくされており、EUのCAFE規制(企業間平均燃費)をクリアしていくためのEV投入が必然となる。ホンダ初の量産EVとして発売された「ホンダe」の開発も、欧州対策に照準が当てられたものだ。

 かつて「米国一本足打法」といわれたホンダだが、近年では最大の戦略市場となっているのが中国であり、中国における電動化は三部ホンダ体制としても最も重要である。すでに発表されているのが、武漢の「東風ホンダ」と広州の「広汽ホンダ」で、それぞれ12万台(合計24万台)の生産能力を持つEV新工場を立ち上げる計画だ。中国向けのEVブランド「e:N」シリーズも立ち上げた。

 中国では、米国でのLGESとの合弁調達と異なり、世界最大の電池メーカーである中国現地のCATLから調達する。ソニーとのBEV提携も同様だが、ホンダはかつての自立主義から転換し、電池調達でも世界1位のCATL、世界2位のLGESと地域ごとに連携するという、したたかな戦略を打ち出してきているのだ。

 一方で、ホンダとLGESの米電池工場の発表に対抗するかのように、トヨタ自動車が8月31日、日米で電池生産に最大7300億円を投資すると発表した。トヨタは、すでに21年11月にグループの豊田通商と共同出資で米国に電池工場を新設する発表をしている。米国ではこの新工場にEV向けの2ラインを新設することになる。

 トヨタは、中国EV大手のBYDやCATLと協業しながらも、電池生産能力増強には自社グループを中心に進めていく方針で、ホンダと対照的な動きとなる。

(佃モビリティ総研代表・NEXT MOBILITY主筆 佃 義夫)