戦略とは、すなわち企業の意思です。優れた戦略がなければ、企業は環境に翻弄されるのみ。よって、コロナのような環境変化は企業の地金を露呈させるとも言えます。コロナ対応の速度や適不適ということではなく、コロナ前からの経営の質の差がはっきり出ただけなのです。

 また、コロナとは関係ありませんが、最近では従来の資本主義が行き詰まり、「新しい資本主義」の時代になりつつあるという論もあります。しかし私は、今は新時代などではないし、資本主義は昔からある普通の資本主義しかないと考えています。その論理は、リスクをとらなければリターンは得られないというものです。

「コロナ禍で戦略論理が変わった」「新しい資本主義が台頭している」といったことだけでなく、経営者は率直にシンプルな言葉で、自分の意思である戦略を表明することが大切です。

業界が被る影響と個別企業の
能力は別々に考える

――小売の一部、運輸、ホテル、外食などはコロナ禍によって業界全体が沈んでいます。原燃料高による今後の影響も懸念されます。そうした業界の中でも競争戦略に優位性があれば、企業が復活することは可能だということですか。

 まず前提として、業界ごとに営業利益率などの指標の平均値を比べてみる必要があります。そうすると、儲かりやすいところとそうでないところの差がわかります。

 たとえば、トヨタ自動車は自動車産業の中で営業利益率が大きい企業で、10%くらいあります。しかし同じ10%でも、製薬会社なら役員の責任問題になりかねません。はたまた卸売業では、10%もあれば抜群に優秀だと言うべきでしょう。このように、業界ごとに競争構造が違うことを踏まえなければなりません。もちろん、マクロ経済が順境にあることも利益率のファクターになり得ます。

 一方競争戦略は、業界構造とは別問題です。競争戦略はあくまで個別企業が持っている能力に注目するものです。業界自体に吹く追い風と、個別企業の能力は別々に考える必要があります。

 たとえばコロナ禍で、航空業界やホテル業界は需要そのものが蒸発し、大きなネガティブインパクトを被りました。しかし、コロナが一段落して行動制限がなくなると、そのインパクトを押さえて業績を伸ばしている企業と、打撃を受けっぱなしの企業とに二極化しています。