今の時代は「平常期」
実は最も不確実性が低い

――足もとでは円安やインフレによる景気後退懸念も増しています。こうした中で、企業が環境変化に影響を受けないこと、あるいは影響を最小限に留めることは可能でしょうか。

 技術や社会制度は、基本的に不確実性を削減する方向に進化します。たとえば、戦国時代に不確実性が高かったのは、戦において前線と本部の間に通信手段がなく、本部での戦局の把握や本部から前線への迅速な指示が困難だったことにあります。翻って現代は、リアルタイム通信が確立されています。

 また、1929年の世界大恐慌と比べれば、2008年のリーマンショックからのリカバリーは圧倒的に早かったわけですが、それは、IMF(国際通貨基金)や中央銀行などの機関が発達し、社会制度が進歩したため、変動を抑えることができるようになったからです。

 その点でいえば、今の時代こそ「最も不確実性が低い時代」とさえ言えるのではないでしょうか。ロシアのウクライナ侵攻やコロナ禍による影響は、歴史を振り返れば激動とまでは言えないと思います。円安にしても、為替は固定相場制をやめたときからそもそも変動するようにできているのです。円高の時代も企業は「大変だ」と言っていました。「不確実な時代」という言葉は、業績不振などの思うに任せない現状に対する企業の言い訳に使われているフシもあります。

 要するに、「今こそ平常期」と発想を転換することが必要です。環境上の脅威が全面的に悪く働くということは滅多にありません。その裏には必ずチャンスがあります。

 さらに言えば、現在のように資本主義経済が成熟し、経済体制がある程度整備されている中では、極論すればピンチにしかチャンスはないのです。「ピンチはチャンス」ではなく、「ピンチがチャンス」です。

――コロナ禍で大きく業績を落とした企業と、それほど業績が悪化しなかった企業、逆に業績を伸ばした企業の差は、もともとあった戦略の良し悪しによる優位性の違い、と言えるのですね。

 そうですね。因果が逆のように語られますが、コロナで業績が左右されたわけではなく、もともと優れた戦略があれば、どんな変化が起こってもそれを機会と捉えて、業績を伸ばせるはずです。