ひとり終活大全#12Photo:kazunoriokazaki/gettyimages

一般葬から直葬や火葬式の葬儀へ、一般墓から樹木葬や合祀墓へ。おひとりさまに限らず、簡素化・小規模化の動きが止まらない。コロナ禍もその動きに拍車を掛ける。特集『ひとり終活大全』(全24回)の#12は、葬儀とお墓の最新事情とおひとりさまに適したお墓を探った。(ライター 古井一匡)

「週刊ダイヤモンド」2022年7月16日・23日合併号の第1特集を基に再編集。肩書や数値など情報は雑誌掲載時のもの。

進んで孤独を選んだ高齢おひとりさまの最期
火葬が済み、散骨前日に息子が遺骨を引き取った

「火葬だけでいいから、幾らかかる?」。末期がんで入院している70代の独身男性は、会うなりそう口にした。

 訪ねたのは、葬儀場や堂内陵墓を手掛けるニチリョクの常務取締役、尾上正幸氏だ。尾上氏は大手葬祭社などで数多くの葬儀に携わり、おひとりさまからの相談にも乗ってきた。このときは病院のソーシャルワーカーを通じて連絡があった。

「ほとんどのおひとりさまは最初に火葬だけでいいから、とおっしゃいます。ただ、こちらとしてはまず本当に家族がいらっしゃらないのかどうか確認しなければなりません。実は親族がいるのに自分から孤独を選んでいる人も少なくないからです」

 自然災害などで突然、親族を亡くして孤独になってしまった人は狼狽していることが多いが、自分から進んで孤独を選ぶ人はどこか開き直ったようなところがあるという。

 このケースでも「いや、いないから大丈夫だ」の一点張りだった。翌日も訪ね、「それじゃ、いつからひとりになったんです?」と聞くと困った顔をして、ようやくひとり息子がいることを認めた。ただ、10年以上連絡を取っておらず、いまさら取るつもりもないとかたくなだ。「そこまでいうなら」と尾上氏は死後事務委任として引き受けることにした。

 もう一つの問題は遺骨の扱いだ。

「どうします?」

「実はね、昨日あんたと話した後、人生の中で一番楽しかった頃を思い出したんだよ。子供の時分、北海道でおふくろと暮らしていた頃のことをね」

「その頃の親戚や知人を教えてくれれば、なんとか探しますよ」

「いや、いい。それより東京の海にまいてくれよ。後は自分で泳いで帰るから」

 3日目、尾上氏が見積もりを作成して病院へ行くと、ケースワーカーが代わって支払いを済ませてくれた。後で病院関係者に聞くと、その人は起き上がるのも大変な状態で、話ができたのが不思議なくらいだったという。自分の思いを話すことで力を出し切ったのか、尾上氏と別れて間もなく危篤状態になり亡くなったという。

 火葬を済ませ、散骨業者に遺骨を渡して数日後、尾上氏は確認のため連絡してみて驚いた。

「なんと散骨の前日に息子さんという人が現れて、自分が北海道へ持って行くといって遺骨を引き取っていったんです」(尾上氏)

 おひとりさまの場合、あらかじめ葬儀などは第三者に頼んでおく必要がある。最近は生前の見守り・身元引受契約、任意後見契約、遺言執行などをパッケージにしたサービスを手掛ける事業者も増えている。

 しかし、専門家や事業者と契約したから安心というわけではない。自分の考えを聞き、思いを受け止めてくれるような人を見つけることが一番の鍵だ。

 次ぺージでは、コロナ禍で激変した葬儀と墓の最新トレンドと、おひとりさまに適した葬儀と墓の判定表を紹介する。