10人に1人が概念希薄

 このことを何人かの知人に話してみると、似たような経験を持つ人が多くいた。

「2人席が並んだ新幹線で『隣、あいてますか』と声をかけられ、反射的に頷いてしまった。2席ともあいているところもいくつかあったのに」(30代女性)

「空いているカフェで一番奥の2人掛けテーブル席に座っていた。店員さんは『お好きな席へ』と案内していたが、次に来た人がなぜか隣に……」(40代男性)

 こうした「隣に座る人」を、「トナラー」と呼ぶこともある。もともとはガラガラの駐車場で隣に停める人を指した言葉のようだ。トナラーの中にはセクハラまがいの不届き者もいるかもしれないが、そうとは思えないケースも少なくない。なぜ、隣に座るのか――。

 そもそも、隣に座られると私たちはなぜ不快感を覚えるのだろう。日本ビジネス心理学会副会長で認知科学研究所所長の匠英一さんは、「パーソナルスペース」の観点からこう解説する。

「自分が快適に過ごすための空間『パーソナルスペース』を侵されたと感じることが一番の理由です。パーソナルスペースの広さは環境や状況で変化し、ガラガラの電車内や空いているカフェでは自分のテリトリーと認識する範囲が広くなる。隣に座られても満員電車のような密着はないはずですが、満員電車以上に不快に感じるのも自然です」

 一方、パーソナルスペースを侵したり、侵されたりすることに無頓着な人もいるという。

「認知の特性でそうした概念が希薄な人が、10人に1人くらいはいます。その人たちは何の悪気もなく、自身のこだわりで席を選んでいるのだと思います」

 こうした行為が「トナラー」と認識されている可能性がある。