世界1100社が署名するキャンペーン

 一例を紹介しよう。パンダのマークでおなじみの環境NGO世界自然保護基金(WWF)は、2020年に企業向けの「Business for Nature」という行動要請活動を始めた。内容は自然環境の消失を2030年までに回復側へと反転させ、2050年までに自然を再生しようというものだ。デカップリング風に言い換えれば、2030年までに絶対的デカップリングを、2050年までに限界値以内の絶対的デカップリングを達成しようということだ。

 このキャンペーンには、すでに1100社以上の企業が署名している※注釈61 。具体的に企業名を紹介しよう。ウォルマート、カルフール、グーグル、マイクロソフト、セールスフォース、SAP、テンセント、コカ・コーラ・カンパニー、ペプシコ、ネスレ、ダノン、ケロッグ、ゼネラル・ミルズ、P&G、ユニリーバ、ケリング、バーバリー、シャネル、ティファニー、H&M、イケア、HSBC、BNPパリバ、シティグループ、アクサ、デュポン、BASFなどだ。

 日本企業では、イオン、日立製作所、ENEOSホールディングス、三菱地所、住友林業、損保ジャパン、MS&AD、リコーなどが署名済みだ。総従業員数は1130万人。総売上は5兆ドル(約650兆円)にもなる。

 もちろんこの活動に署名したからといって、本当に絶対的デカップリングを始めるとは限らない。ただし、すでに経営戦略レベルにまで落とし込んだ企業もある。例えば、ペプシコは2021年9月、「ネイチャーポジティブ」を経営戦略として掲げ、「PepsiCo Positivepep+)」という戦略を発表。その中で2030年目標を宣言した。

 具体的には、食品・飲料原材料の生産農場でリジェネラティブ農業(環境再生農業)を展開する面積を700ヘクタールにまで拡大した上で、農業サプライチェーンに関わる25万人以上のウェルビーイングを向上。気候変動への影響では、2040年までに取引先(スコープ3)まで含めたカーボンニュートラルを達成するだけでなく、使用した水資源量以上の水を水源や社会に還元する(ウォーターポジティブ)。これらはWWFが掲げるBusiness for Natureに対応したものとなっている。

 もちろん、ペプシコもネイチャーポジティブを実現するのと同時に、利益や企業価値の向上も追求している。実際にネイチャーポジティブを実現する上での事業機会についても言及され始めている。世界経済フォーラムによると、食料・農林水産業、インフラ・建設業、エネルギー資源採掘業でネイチャーポジティブを追求することは、2030年に10兆1100億ドル(約1363兆円)分の事業機会があり、雇用創出効果は3億9500万人と試算している※注釈62 。