ドルの需給という観点からは、貿易収支ではなく経常収支を考えるべきだ、ということもいえそうだが、経常収支も今年上半期はほぼゼロであるから、経常収支からは、今の為替レートは妥当だということになるだろう。

 ちなみに、筆者は経常収支よりも貿易収支に注目したい。それは、貿易収支と経常収支の主な違いである第1次所得収支(日本と海外の間で行われる利子や配当の受け払い)が、為替レートによってそれほど影響を受けないからであり、海外から受け取った利子や配当は海外での再投資に使われてドル売り注文として出てこない場合も多いからである。

そもそも、円安は悪いことなのか

 円安は悪いことなのだろうか。ひと昔前まで、日本経済は円高に弱いといわれていて、円高から円安に転換すると皆がホッとしたものだ。

 最近では、輸出企業が海外現地生産を進めているため、円安になっても輸出数量がそれほど増えず、景気を押し上げる効果は限定的であるし、一方で輸入物価の上昇が消費者物価を押し上げて消費者の懐を冷やし、消費を抑制する効果もあるので、円安が景気にプラスとは言い切れないが、マイナスとも言えず、プラスマイナスゼロといったところではあるまいか。

 物価上昇の悪影響は多くの人が容易に感じることができる一方で、輸出数量増による雇用増大は、一部の人へのメリットであり、しかも職を得た人が「円安のおかげだ」とは認識しないだろうから、人々の感覚としては困ったと感じるのだろうが、実際に日本経済として困っているとまではいえないように筆者には思われる。