スピード調整はすべきだが、実際には調整は困難かも

 円高であれ円安であれ、為替レートが急激に変化することは望ましくない。その意味では、為替介入によるスピード調整を試みることは合理的なのかもしれない。

 しかし、結果としてドル売りの為替介入が効果を上げるとは考えにくい。実際、9月22日以降に数回試みられた為替介入は大した効果を発揮していないと思われる。

 為替市場のドル需給に直接働きかけるほどの巨額の介入をするならば別だが、そうでない介入は、市場の期待(予想)に働きかけないと成功しない。市場参加者が「日本政府が本気で円安を止めたがっているから、流れが変わるだろう。その前にドルを売っておこう」と考えるようでなくてはならないのだ。

 しかし残念ながら、市場参加者の多くは「日本の単独の介入では市場の流れを変えることはできないだろうから、介入があっても気にする必要はない」と考えているようだ。そうだとすると、介入は大した効果はないだろう。

 米国が介入に参加してくれて一緒にドルを売ってくれるなら、話は別であるし、そうでなくても日本が本気で巨額介入をすることを米国が容認してくれるなら話は別かもしれないが、米国はドル高を悪く思っていないだろうから、ドル売り介入に参加することはないだろうし、容認することもなさそうだ。

 現在の米国経済にとって最大の悩みはインフレであって、ドル高による輸入物価の下落は米国にとって好ましいものであるのだから。

「日本はかつて円高で苦労したのだから、米国もドル高で困っているだろう」などを考えてはならないだろう。日本が円高で困っていたときはインフレではなかったのだから、事情が異なるのだ。

 本稿は、以上である。なお、本稿はわかりやすさを優先しているので、細部は必ずしも厳密ではない。