安倍晋三内閣の支持率が内閣発足時より上昇して60%を超えた。安倍内閣の経済政策「アベノミクス」が好感されているという。緊急経済対策や2%の物価目標を柱とする日銀との共同声明が世論の高評価を得ている。また、世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)でもアベノミクスが一定の評価を得たことも、支持率上昇に好影響を与えている。

 だが、安倍内閣の支持率が上昇するのは、ある意味当たり前だろう。アベノミクスが公共事業など「国民の望む政策」をずらっと並べた一方で、歴代政権が苦心惨憺取り組んできた財政再建や構造改革のために「国民に痛みを強いる政策」を完全に避けているからだ。

バラマキに政治家の指導力はいらない

 現在、自民党本部に、業界団体や地方自治体関係者が陳情に押しかけている。その結果、族議員・業界・省庁のさまざまな要求が、緊急経済対策に盛り込まれた。安倍首相や麻生太郎副総理・財務相は、「バラマキではない。古い自民党から脱皮をした」と強調するが、無駄な事業を排除することに政調会は機能していない(第51回を参照のこと)。安倍首相が指導力を発揮した形跡もどこにもない。

 金融緩和に難色を示す日銀を抑えて、2%の物価上昇率目標を明記した政府と日銀の共同声明を実現した際に、安倍首相が政治力を発揮したというかもしれない。だが、安倍内閣は日銀総裁の人事権を握っている。また、日銀は政治家との厳しい駆け引きに慣れていない、おとなしいエリート集団だ。安倍内閣が日銀を抑えるのは、別に難しいことではない。

 今回、安倍内閣は次期日銀総裁の人事を露骨に使って、日銀を身動きできなくした(第51回を参照のこと)。これは、エリートである日銀を叩けば世論が喜ぶと、短絡的に考えただけに思える。歴代政権が「日銀の独立性」に配慮し、金融緩和の副作用も考慮し、慎重に政策を検討してきたことと比べ、政策全体のバランスを考えず、いささか品格に欠けた政治手法だと思う。