「器」を大きくするだけでは
国民は豊かにならない

 枠の拡大はやった方がいいに決まっているものの、これで大きく口座が拡大するかどうかということになると疑問だ。特にNISAやiDeCoを利用している人は資産形成に対する意欲のある人、意識の高い人が多いだろう。彼らにとっては非課税枠の拡大はとてもありがたいことなので、利用金額は増えることは間違いないだろうが、利用者そのものが大幅に増えるかどうかはわからない。

 しかしながら、資産所得倍増のために必要なことは現在の利用者の投資額を増やすだけではなく、より幅広く多くの人たちを投資に向かわせることだ。そのためには一体どうすればよいかを議論すべきだろう。

 制度の拡大自体は器を大きくするだけの話であり、大切なのはその器に入れたくなるようにすることと、入れられるものを用意することなのではないだろうか。その観点で見ると、資産所得倍増のために本当に重要なことは次の二つだと考える。

(1)日本企業の収益力を高めること
(2)働く人の賃金の引き上げを行うこと

本質は非課税の拡充ではなく
日本企業の収益性を高め、投資意欲を上げること

(1)については、日本企業の収益力はまだまだ高いとは言えない。もちろんこの半年~1年だけを考えれば欧米に比べてそれほど悪くはないが、長期的な視点で考えるとROEで見ても日本の企業が構造的に高収益になっているとまでは言えない。

 投資家目線で考えると、“もうからない”ものに投資をしたくないのは当たり前の話だ。日本企業が投資するに値する魅力のあるものにならない限り、いくら制度を拡充してもあまり意味はないだろう。

 もちろん、日本企業がだめなら外国株式に投資すればよいではないかという意見もあるだろう。たしかに、個人投資家という立場で考えればその通りではあるものの、目指す「新しい資本主義」の実現のためには、国力となる「日本企業の収益力」を向上させることは欠かせない。つまり本旨は、我が国にある2000兆円の個人金融資産を、もっと我が国の資本市場に還流させていくことだからだ。

 本質は、器を大きくすること(非課税の拡充)ではなく、器にお金を入れたくなること(企業収益の向上)なのだ。

 これをきちんと理解していないと、小手先の議論に終始しかねない。